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対談/北川貴英&山上亮 第四回「親子体育」をかんがえる

システマ東京の北川貴英さん、整体ボディワーカーの山上亮さんの対談4回目は、場を感じられる「感応するからだ」をどのように作るかについて。 「嫌な予感、こわさ」を感じるナイフワークなど、もともとあるのに見えなくなっているからだの能力を引き出すために、できることを話し合います。

北川貴英×山上亮 「親子体育」をかんがえる

第四回  「からだは感応する」

語り●北川貴英、山上亮

構成●阿久津若菜

からだは最初から“嫌な予感”を知っている

コ2編集部(以下、コ2) 第2回で「場作りが疎かになってきた時に、一番弱い人の一番弱いところに負荷がくる」という話がでましたけれど、場を感じる力を養うことができれば、無用な危険を避けられるのではないでしょうか。

 「親子体育」が“親子の間でからだを育てること”であるならば、その感覚を養うために何ができるか(まず親の方の訓練だと思います)が、子どものからだを守ることにつながると思います。具体的には、どういうからだを作っていけばよいのでしょうか?

北川 「感応するからだ」を作るということでしょうね。システマのクラスいえば、“嫌な予感”を感じるトレーニングをすることがあります。

山上 どうやってやるんですか?

北川 二人組になり、まず目をあけた状態で自分に向かってナイフを近づけてもらい、からだが「嫌だな」と反応するのをまず感じる。そして、嫌な感じがするところからしないところまで歩いて、ナイフを避けるというワークです。

山上 おお、いいですね。

北川 それを次は、目をつぶってやります。だいたいみんな、2時間くらいあればナイフを避けられるようになります。誰でも開発できる能力なんですよ。

山上 たった2時間で、できるようになりますか?

北川 ええ。“嫌な予感”を感じるのに、いつもは何が邪魔しているかといったら、頭なんです。「そんなこと、わかるわけがない」と頭が止めている。でも頭より先にからだは、嫌な予感を感じるとすでに動いています。なのにそれを自分の頭で一生懸命止めていることが、周りから見るとわかります。

 でも本来はその感じをもたないと、システマのどのワークも成立しないんです。

山上 システマの基礎稽古なんですね。

北川 ええ、マーシャルアーツの基礎ですね。本来は。だけど、あんまりそればかりやっているとオカルトっぽくなっちゃうので、たまにしかやらないですが。この感覚を誤魔化しても、ある程度のところまでは行けますけれど、そこから先に行くのは無理なんですよね。

山上 人間はもともと、こわさを感じる感覚が鋭いのかもしれません。僕の講座ではそれを、よく研いだ包丁でやったことがあります。

 一人の人が包丁を後ろ手に持って見えないようにして、それで四人くらい並べた中で、誰が包丁を持っているかを当てるという。みんな近づいてくると、「あ、こいつ(が持ってる)」とか言って。大人よりも子どもの方が当ててましたね。

北川 そう、そういうことです。こわさを感じる感覚って、あとから養うものではなく、もともとあるものですよね。

山上 その時は怖さをリアルに感じてもらうために、前の晩に包丁を一生懸命研ぎました。それでみんなには「すっごい切れるからね」っておどしました(笑)!

 これも自分のテーマの一つですが、練習の時に「どこまで本気になれるか」ということ。真剣さがないとやっぱり感覚って鈍るんですよね。どこか本気にならないと五感というものは、研ぎ澄まされないものなのだと思います。

北川 そうそう。ナイフのワークでも、相手に反応を起こさせるような近付き方があります。

山上 あくまでも“ごっこ”で、実際には刺したりしないのですが、本気で刺すくらいの真剣さをもってやらないと、感覚が働かないですよね。包丁を持っている人には、いかに真剣にやってもらうか、「こんなの何になるの?」って思っても、「とにかく真剣にやって」っていいます。

 そういう意味ではごっこ遊びの時にも、本気で“なりきる”子どもたちの姿勢には、学ぶものがありますね。

北川 システマのワークでもそうですね。目をつぶると、ナイフが近づいてくるのがわからない、と言う人には、ほんとにチクっと刺してみるんですよ(トレーニング用のナイフなので、刺してもケガはしませんが)。そうするとみるみるうちに(笑)、わかるようになったりとか。

山上 あー。ちょっと痛いとか、それは大事かも。僕も真剣さをどう引き出すかと考えています。みんなの見ている前でワークをやらせるとかね。

 サクラとか松とか、版画用の板を12種類くらい用意して、それを目隠しで触って当てるという、“木の種類当て”のワークを講座でやったことがあります。ただそれだけやっても面白いのですが、その時はみんなに真剣にやってもらうために、「最後にみんなの前で当ててもらうので、しっかり練習しておいてください」と言いました。ちゃんと罰ゲームまで設けて。

 そうしたらさすがにみんな当てていましたね。ある人なんか、自分でさらにハードルを上げて“触らずに当てる”なんてことをやってましたけど、それでちゃんと当てていたので見事だなと思いました。

もっている能力には蓋をしない

山上 まえに講座に参加していた方が、子どもの頃にババ抜きをする時に、どのカードがジョーカーなのかすぐにわかってしまったという話を、してくれたことがあります。

 自分はジョーカーがどこにあるかすぐわかってしまうから、ババ抜きというゲームが理解できなかったそうです。なんでみんな、どれがジョーカーかわかっているのに、引くと喜んだり悲しんだりしているのかわからない。

 それである時気づいたそうなんです。「わかった! みんなジョーカーがわからないふりをして楽しんでいるんだ」と。それからは自分もジョーカーがわからないふりをしてババ抜きをすることにして、ようやく楽しめるようになったそうなんです。

北川 それは新ルールですね(笑)。で、その後どうなったんですか?

山上 ジョーカーがわからないふりをして楽しんでいたら、そのうち本当にわからなくなっちゃったそうです。笑い話のようですけど、僕はうなってしまいましたね。すごく意味深い話だと思う。ひょっとしたらそういうことっていろんなところで起きているのかもしれない。

第1回で話したサルの個体識別の話もそうですけど、人間って子どもの時にはものすごくいろんなことを感じていて、その違いも感じ分けているのに、大人になる過程でそれを失っていくのかもしれない。それかある意味、自ら蓋をしてふさいでいっているのかもしれません。

北川 折角ある能力には、蓋をしない方がいいですよね。反対に、うまく蓋をとってやると、後からでもけっこう出てくるものでもありますよね。

山上 教育というか、人間が育つにあたっては、両極端な能力が必要とされると思います。いろんなことを感じた時に、どこまでを意識化してどこまでを意識化しないのか。それはかなり無意識的な部分で行なわれることですけど。あるいは感じたことをどこまで、表に出すのかということも。

 私は、人間というのはお互い話をしなくても全部わかっているものだと思っているのですが、それでも目の前の人が一生懸命隠そうとしていることを、そのままズケズケと口に出してしまったら問題になるじゃないですか。だから、たとえ何となくはわかっていても、口にしたらまずいことには触れないわけです。みんなわからないフリしますよね、「あ、これは明らかにカツラだな」と思っても黙っているとか。

北川 あえて言わない、気づかない(笑)。身体にとっての自然って、そのままでは人間社会では通用しないことがあります。だからどう最適化するか、という問題が出てきますよね。その意味では人間社会がどのようなルールで動いているのかを知るのも大事だと思うんですよ。

山上 確かに、社会性を保つには大事だと思います。でもあえて能力を隠して見ないようにしているうちに、気づけなくなることは膨大にある。それってすごく大事なものを失っていることでもあるなと。だから気づける“からだ”って、重要だと思います。自分が何を感じているのかはっきり意識する前に、「あ、これはからだがイヤがっているな」って気づくこととか、そういうことってすごく大事だと思うんですよね。

未完成のからだは格好の先生

コ2 これまでは「自分のからだをいかに養うか」について話をしてきましたけれど、実際には「教える—教わる」、他者がいてその動きを学ぶことで、自分の動きや感覚は磨かれていきますよね。相手の動きに反応する脳細胞“ミラーニューロン”がその学習に関係しているという研究もありますが、子どもはどうやって動きを学んでいるのでしょうか。

北川 子どもって、大人の動きだけを見ても動きは覚えられないんです。(動きの)てっぺん、完成形をいきなり提示されても、子どもにはわからなすぎるんですよ。ですから、少しだけ先にできている子が近くにいるのが大事です。

 何人か兄弟がいたりすると、二人目、三人目の方が歩き出すのが早いといいますよね。それと同じで、ちょっと年齢が上の人が一緒にいるという状況がいい。

 学校の体育も、2、3学年が合同でやった方がいいんじゃないかと思います。ちょっと上の学年の子がいて、その動きを真似る下の学年の子がいる。上の学年の子も下の子に教えてあげることで、伸びていく。そういう取り組ませ方があるんじゃないかと。そうやって「教える側」と「教えてもらう側」が同時にいる場を作ると良いんじゃないかと思うんですけどね。

山上 お互いに大事なことですよね。教える—教わるって。

北川 私が気をつけているのが、自身がだんだんシステマ初心者の気持ちがわからなくなってきているんじゃないか、ということです。今では「このくらいなら誰だってわかるだろう」と思っているようなことでも、思い返してみると身につけたり感覚をつかんだりするのに、かなり手こずっていたりしてるんですよね。そういう苦労した記憶を、すっかり忘れつつあるんですよ。

 だからまだそれを覚えている人が、知らない人たちに伝える場があると……初心者の人ってわかったばかりのことを、人に教えたくなるじゃないですか。そういう熱があるんですよね。

 シュタイナー教育って、そういう学びの場を作っているんじゃないかと思うんですけれども。あれって学年別ですか?

山上 学年は別ですけど、行事がいろいろあるので、そこで習いますね。あと兄弟クラスっていうのがありますから、一緒になにかをする機会は多いです。

北川 なるほど。数学だって、1〜3年生、みんな一緒にやっちゃったらいいんじゃないかと思いますよ。中学生になると方程式ってありますよね。簡単なところから始まって連立方程式になっていって。1年生が一緒に授業を受けながら、「3年生の二次関数ってわけわかんねー」って気づくだけでもいい。

 学年が上の子で、授業がわからなくてつまづいちゃった子も、3年分をまとめてやるうちに、段々わかっていくっていう。まあ、授業カリキュラムとしての時間配分は、難しくなりますけどね。

山上 体育のみならず数学も、ですか。大胆(笑)。シュタイナー教育では、からだをすごく重視しているので、いきなり知識という形では決して教えませんね。必ずからだを動かす体験を通して学ぶようになっています。教科ごともそれぞれバラバラなのではなくて、きわめて有機的な形で連携しています。

 たとえば「産業革命」を習う場合、歴史の授業の時にただ、歴史的な出来事として頭で学ぶだけではなくて、同時並行的に手仕事の授業で、手やからだを使う体験としても学んでいくんです。それまで手縫いで一生懸命やっていた仕事を、ミシンを使って作業したりする。

 ミシンを使うと雑巾でも何でも、バーッとあっという間にできてしまいますから、そこで初めて「今まで手で苦労していたことは、機械だとこんなに一気にできるのか」と気づけます。そうすると産業革命が実感できます。産業革命でミシンが登場したことの意味が、自分のからだでわかるんです。

学びと教えが動き出す

北川 私が日常的に行っているキッズクラスでいうと、微妙に違う年代の子がいるのがいいなと思っています。通っている子に下の子が生まれると、ゼロ歳児はそのへんに転がしておいて見学してればOK。親はつい、見ているだけの状態に満足できなくて、子どもにすぐに何かやらせようとしますけれど、その場で見ているだけで十分なんですよね。そうするとクラスの後、勝手に家でやっていたりしますから。

山上 子どもって結構そうですよね。その場でやらせようとするとやらないけど、家に帰ると見てないところでやっていたりして。自分では1回も靴をそろえない子が、小さな子を相手に「靴はこうやってそろえるんだよ」って教えてますよね。

北川 そうそう。実は子どもたちって内弁慶です。「そう言うお前が、靴そろえろよ!」ってね(笑)。

山上 「教える側」と「教えてもらう側」が一緒にいると、学びと教えが動きだしますよね。その時大人は、何か言いたくなっても黙って見守ること。

 子どもと接していて思うけれど、子どもは最初から全部わかっているんだよね。そのくせ、甘えたいから言うこと聞かない。でもへんな反発心だけ作ってしまうと、大人になってもただ単に、子どもの反抗心が大人になっても残っているだけみたいな場合も、すごくありますよね。

(第四回目 了)

--Profile--

北川貴英(Takahide Kitagawa)写真左

08年、モスクワにて創始者ミカエル・リャブコより日本人2人目の公式システマインストラクターとして認可。システマ東京クラスや各地のカルチャーセンターなどを中心に年間400コマ以上を担当している。クラスには幼児から高齢者まで幅広く参加。防衛大学課外授業、公立小学校など公的機関での指導実績も有るほか、テレビや雑誌などを通じて広くシステマを紹介している。

著書

「システマ入門(BABジャパン)」、「最強の呼吸法(マガジンハウス)」

「最強のリラックス(マガジンハウス)」

「逆境に強い心のつくり方ーシステマ超入門ー(PHP文庫)」

「人はなぜ突然怒りだすのか?(イースト新書)」

「システマ・ストライク(日貿出版社)」

DVD

「システマ入門Vol.1,2(BABジャパン)」

「システマブリージング超入門(BABジャパン)」

山上亮(Ryo Yamakami)写真右

整体ボディワーカー。野口整体とシュタイナー教育の観点から、人が元気に暮らしていける「身体技法」と「生活様式」を研究。整体個人指導、子育て講座、精神障碍者のボディワークなど、はばひろく活躍中。月刊「クーヨン」にて整体エッセイを好評連載中。

著書

「子どものこころに触れる整体的子育て(クレヨンハウス)」 「整体的子育て2 わが子にできる手当て編(クレヨンハウス)」 「子どものしぐさはメッセージ(クレヨンハウス)」 「じぶんの学びの見つけ方(共著、フィルムアート社)」

山上 亮ブログ:http://zatsunen-karada.seesaa.net/

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