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対談/北川貴英&山上亮 第六回「親子体育」をかんがえる

 システマ東京の北川貴英さん、整体ボディワーカーの山上亮さんの対談6回目は、「親子でふれあう」コミュニケーションについて。親子の密着度を高める抱っこの仕方や、手当てのやり方をわかりやすく伝える“ハンバーグ”など、お二人が日頃の講座で実践されているやり方を紹介します。

北川貴英×山上亮 「親子体育」をかんがえる

第六回  「親子でふれあう、からだを感じる」

語り●北川貴英、山上亮

構成●阿久津若菜

何よりまず、親を動かせ!

コ2編集部(以下、コ2) 前回(第5回)は、「親子体育」の考え方が、学校で通常教えられている教科としての体育と何が違うのか? という話をしました。

 お二人は2013年の9月に、朝日カルチャーセンター立川教室でコラボ講座をされましたよね。それが本連載企画の発端になったわけですが、あの講座、当初は「親子連れで参加できる“武術&整体”の体験型ワークショップをやってみよう!」としか決まっていなくて、今思うとけっこうな無茶ぶりだったと思うんです(笑)。

 お二人はそもそも、「親子体育」というテーマが与えられた時、何をしようと思われたのでしょうか?

北川 僕は何よりまず、「親御さんにからだを動かしてもらう」ことを考えました。とにかくからだを動かしてもらうこと。立川での講座の時は、親が子どもを抱えてスクワットしたりとか、背中に子どもをのせてプッシュアップ(腕立て伏せ)をしたりとか、いろいろやりましたけど、思いのほか早く親の方がへばっちゃって。残りの時間で何しようかなと思ったんですけどね(笑)。

山上 あの時やったことは、システマの親子クラスで、いつもされていることなのですか?

北川 よくやっています。だから親子クラスに継続して参加していると、子どもだけでなく親も、知らないうちにすごく体力がつくんですよ。

山上 そういういつもの感覚で講座をしたら、意外と早く親がへばっちゃったんですね(笑)。北川さんにとって「親を動かす」ことは、親子体育の基本思想なのですか?

北川 そうですね。もともと子育て中のお母さんたちが、日頃からだを動かす場がなくて、「子どもが小さいうちは母親一人で講座に参加できないし、かといって親子で一緒に行ける場もない。親子で一緒でもからだをしっかり動かせる機会を、つくってくれない?」と、お母さん方から相談されたのが、そもそものきっかけでした。

 「だったら親子で一緒に、システマやったらいいじゃない」と思って、始めたんですよ。

山上 システマの親子クラスに参加するのは、何歳ぐらいの子が多いんでしょう。

北川 最近の例だと、下は0歳から、上は小学校4年生くらいまでかな。親子クラスをやっていると、「うちの子にこんなことができるなんて!」と、親が驚く瞬間がたくさんあるんですよ。

 ただしそれには一種の錯覚があって。今まで、子どもの能力がないからできなかったのではなく、難易度自体は別に高くないのに、普段やったことがないからできなかっただけのことが、たくさんあるんです。

 親子クラスは1時間足らずのクラスですが、そんなに短時間でも、できないと思い込んでいたことを何回か繰り返すうちに、最初はぎこちない動きだったのが急にできるようになります。そうすると親は「うちの子、もうこんなことできるの!」と驚くことになるわけです。

 からだが強くなったから、あるいは反復練習したからできる、というのとは少し違って、頭のブレーキを外していくことでこういうことが起こるのですよね。

親子でふれあう機会を増やすには?

北川 親子クラスの時には、「親と子がふれあう、密着する時間を多くする」ことも心がけています。親子でどれだけ身体的に接触するかが、メンタルにも大きく関わってくると考えているので。

 また、「ベビーカー論争」ってありましたよね。街中でのベビーカーの利用について是非を語るという。この論争で僕が抜け落ちているなって思うのが、ベビーカーの代案となるであろう、「抱っこひも」の利点があまり語られなかったってことですね。最近はディディモスやスリング、エルゴといった、デザイン的にも優れたプロダクツがたくさん出ているのですが。

 うちはベビーカーを買わず、成長にあわせて何種類かの抱っこひもを使いました。小回りがきいて便利でしたよ。

山上 ベビーカーと抱っこひも、どんなところが違うんでしょう?

北川 一番の違いは、からだとからだで“ふれあう”時間ですね。抱っこひもだと大幅に稼げる。ベビーカーも良いと思うんですよ。荷物いっぱい乗るし。でもあれって自家用車ありきじゃないかと。

 私みたいに都心に住んでいると、車を持つ意味がないんですよね。だから移動が必然的に徒歩、自転車、電車になりますので、いつでも階段やエスカレーターに乗れるようにしておいた方が小回りが利きます。

 またスリングなどは重い、腰が痛くなるといった声もたまに聞かれますが、固定の仕方で負担はかなり変わります。リュックサックでは重いものを上に入れると重心があがって動きやすくなるでしょう? 下の方に入れると重心が落ちて、より重く感じられてしまう。

 これと同じで、抱っこひもも高めの位置で固定すると軽く感じられるんです。胸に密着させる感じですね。私自身もまだスリングに慣れてない頃、家内に固定の位置を直されて、ずいぶん軽くなったのに驚いたことがありました。

 あと私はものすごく心配性なので、一緒にいる時は常に生存確認したいんですよ(笑)。だって乳児って簡単に死んじゃうじゃないですか。すぐ母乳吐くし。それ喉に詰まったらすぐに命に関わるわけでしょう? 夏だったら地面からの輻射熱で茹ってるかも知れない。そんな意味でもうちでは抱っこひもを重宝しました。

 とはいえうちは家内もシステマのインストラクターやるくらいなので、からだが強いんですよね。だから大丈夫だったというのもあるかと思いますが。

山上 それって、子育てがすごいサバイバルですね(笑)。いつの間にか流れ弾に当たって大変な事態が起きている! みたいな。一般的には何歳ぐらいから、親子でふれあう機会が減ってくると思います?

北川 一般的には……保育園や幼稚園に通うようになってからじゃないですか。ほぼ一日中、保育園にいる子も多いですから。

山上 0歳児からの保育もありますから、親子でふれあう時間は物理的に減りますよね。

 私は毎月保育園に行って子どもの整体をしたり、からだを動かすワークをやったりしているのですが、そこで見ている子どもの中にからだがガチガチの子がいるんですよ。

 私はお母さんには直接お会いしないので、保育士さんの相談で聞く限りなんですけど。話によると、その子のお母さんもまた、やはりからだがガチガチな感じらしくて、抱っこする時にも、子どもをまるで“人形のように”横にまっすぐにして抱っこするそうなんです。

 それで保育士さんに、からだをゆるめる簡単な整体を教えて、毎日その子に整体をしてもらっていたのですが、そうしたらその子もだんだんからだがゆるんできて、抱っこされるときにも安心してからだを委ねられるようになったんですね。けれどもあるときお盆か何かに長いお休みをして、久しぶりに保育園に戻ってきたら、またからだがガチガチになっていたんです。

北川 やはり違うものですか、抱っこの仕方で。

山上 今までそんなに意識していなかったんですけど、ベビーカー派か抱っこひも派か? という今の話をきいて、物理的な接触の仕方や時間の違いってあるかもしれないと思いました。抱っこの時間の長さだけでなく、抱っこ仕方そのもののがわからないお母さんというのは、現代ではやっぱりいるかもしれません。

 一時期、「抱き癖がつく」とかいって“子どもを抱っこしないで育てる”なんてことが流行ったこともありますしね。昔に比べれば明らかに子どもの数が減っていますし、思いきり外で遊べるような場所も無くなってきていますし、子ども同士の身体接触は確実に減ってますよね。

 やはり子どもの時に身体接触をあまり経験していなければ、抱っこするということもどういうからだの使い方をするのか想像しづらいのかも知れません。

 慣れないぎこちない抱っこの仕方だと、やっぱり抱っこされる側の子どもも一生懸命頑張って抱っこされているために、どこかゆるまないんでしょうね。からだを固めて落っこちないようにしたりして。

北川 子どもにとっては、まっすぐに抱っこされるって大変かもしれないですね。

山上 なんだか安心して親にからだをゆだねられないですよね。

ふれあいの公式「面積×時間=スキンシップ量」

北川 僕自身は、自分の子どもを“抱っこひも”で育てたのですが、それは「皮膚接触の時間が長い方がいい」と単純に思ってるからという理由もあります。さらにそれって、一種の定量化ができると思っているんです。「面積×時間=スキンシップ量」みたいな公式が成り立つという。

 このスキンシップ量を稼ぐことで、人が人に触れることに対する恐怖心をとるとか、人と人との距離を考えられるようになるとか、人格形成やコミュニケーション能力に関わってくる

 じゃあ殴ったりするような不快な接触はどうなのかというと、不快感を感じるのは無造作に侵入してくる「鋭い接触」です。つまり同じ圧力でも、狭い表面積のところに短時間で圧力を加えると、それが鋭さとなって、不快感を与えることになる。それでは、この公式の因子となっている、時間も面積も稼げないんです。

 まあ他にも例外や不確定因子がたくさんあるとは思いますが、大雑把には「面積×時間」ってそこそこ成立するんじゃないかと。

 この辺りの話は、桜美林大学の山口創(やまぐち・はじめ)教授が、「身体心理学」という分野で、心の成長とスキンシップとの関係性を研究されていますよね。

山上 動物実験レベルでは、ある程度実証されていますよね。親に抱っこされずに育ったサルが、自分が生んだ仔ザルに触れない、身体接触をしないという有名な実験があります。

 ハリー・ハーロウ(Harry Harlow, 1905-1981)というアメリカの心理学者が、生まれたばかりの仔ザルに「隔離飼育」を行った実験です。

 仔ザルのそばに、哺乳瓶をもった針金製のサルと、何ももっていないぬいぐるみのサルとを置いておく。仔ザルはどうするのかというと、おなかがすいた時だけ針金のサルの方に行ってミルクを飲む。でもそれ以外の時間はずっと、ぬいぐるみのサルの方に抱っこされている。どんなにエサを与えられようと、身体接触を常に求めて針金サルの方には、居つかなかったそうなんです。

 おそらく人間だって、基本的な行動としてはそう変わらないでしょうね。

北川 そうですね。人間も動物ですから。コンラート・ローレンツ[編注:1903〜1989年オーストリア生。本能的な行動とは何かを実験した「刷り込み」などの研究で知られる]から始まった動物行動学って、人間を理解するのにとても良い気がします。

 ただ、ふれあいは多い方が良いとか、ドグマティックな指針にしてしまうと、肩身の狭い親御さんが出てきてしまうのが現実です。保育園に子どもを預けることに罪悪感を抱いたり。

 私としてはむしろそういう親子が短くても濃密に触れ合えたらいいなと思って、親子システマを通じて新しい体育を模索しているところがあるのですけれども。

山上 それは「自然分娩で産んだか」「帝王切開で産んだか」で悩む、お母さん方の話に通じるところがありますね。

 私の講座に来るような方はだいたい、自然育児をされる方が多いので、やはり出産も“自然分娩”を希望される方が多いんです。でも出産もいろんなことがありますから、状況によっては緊急入院で帝王切開ということもある。

 でもそれで子どもが無事に生まれれば、それで良いかとも思いますが、やはりどこかで「自然のお産ができなかった」ということが、お母さんの中に負い目のような心残りのような形で残ってしまうことがあるんですよね。

 その事実をきっちり受け止めて、引き受けてゆければ良いのですが、うまく受け止めきれないと、「最初(産む時)に失敗してしまった」という思いが、その後の子育ての中で、親子関係に影を差すこともある。ときどきそんな感じを受ける親子関係というのもあるので、そういう思い通りに行かなかったとき、理想から外れてしまったときに、事実を受け止めてそこから立ち直る力というのも大事ですよね。

 それを支えてくれるのはやはり、「いま私はここに生きている!」という実感であって、それはつまり「からだ」なんだと思います。何があっても最終的に帰ってくるのはこの「自分のからだ」しかない

北川 だから、どんな風に産まれてもどんな風に育っても、「いい感じにからだを育てよう」というのが、親子体育の目的なんじゃないかと。生まれ方や育ち方で運命が決まってしまうなら、生きるのがが空しくなっちゃいますからね。

自分のからだのことを知っているようで知らない

コ2 では山上さんは「親子体育」を講座でやる時に、何をされようと思いましたか?

山上 まず親と子の両方に、「自分のからだを感じてもらいたい」と思いました。特に親には、からだがもっと豊かなものだっていうことを、知ってほしかった。たぶん「からだがある」ということすら、考えたことがない人が多いんじゃないかと。自分自身がそうでしたから。

 整体に興味があるという人はだいたい、自分のからだの具合が悪かったのを、整体と出会って劇的に良くなって、それで整体に目覚めたというような人が多いのです。ですが僕は、小さい頃からいたって健康で、それなりに運動もできて、自分自身のからだについて何か悩んだり考えたりというようなことはまったくなかったんですね。

 それはとても幸せなことではあるのですが、自分のからだについて何か考えることもなく成長してきてしまって。そんな呑気な自分が整体と出会ってから、急にからだということを考え始めたんです。ですから長年、自分のからだの不具合と付き合いながら、からだについて考えてきた人とは、おそらくずいぶん違うんじゃないかと思います。

 多少でもからだについて考えたことがあれば、からだとの付き合い方を何となく考えていくかと思いますが、あまり考えずに成長してきた人が、歳を重ねてきて、からだのあっちが痛いこっちが痛いとなってくると。そこで初めて自分のからだというものが考える対象として立ち上がってくるんですよね。

 でも自分のからだについて考えたこともなければ、付き合い方も分からない人は、何をしていいか分からない、からだとどう接していいか分からないことが起きてしまう。そうなる前にできればちょっと、自分のからだにも目を向けてみようよと。自分のからだって、知っているようで意外と知らないことがいっぱいあるんだよ……と、そんなことを伝えたいんですよね。

コ2 実際、講座をされてみて、どうでしたか? 受講生からの手応えというか、発見はありましたか? 個人的には「ハンバーグ」のワークが面白かったです。

山上 ああ、「背中のハンバーグ」ですか。 あれは講座などで私がちょくちょくやるワークなんですが、

 「うつぶせになってもらった相手をお肉に見立てて、それを挽いたり捏ねたり叩いたりして、最後に手を当ててジューッと焼いてハンバーグにする

 という、単純なワークです。小さな子どもでもできるので保育園などでもお互いにやってもらったりしてますね。

 あのワークのねらいとしては、何も知らない子どもに「愉気(※)」をしてもらいたかったんです。でも愉気とか手当てとかいうときっと分からないだろうし、何か妙に構えてしまってもあんまり良くないので、とにかく相手のからだにじっと手を当てるために何ができるかなと考えたんです。

(※)ゆき。「人間がお互いを守ろうとする本能的な「手当て」を発展させ、呼吸法を基礎とした精神集注による気の感応の実践法」のこと。(公社)整体協会のサイトより(link)

 いろいろ考えているうちに、「手当て=熱を伝える=ジューっと焼く」という、ハンバーグをつくることにしたらどうだろう、と思いついて。ハンバーグは子どもたちも大好きだし、ジューって焼いている時になんかこう、イメージの中で、手を当てるとじわじわ熱が伝わる、それが気持ちいいね、これが手当てだねとつなげられるなと思って。

北川 あれはすごくよかったですよね。手当てをしてハンバーグを焼くだけでなく、材料をトントンと刻んで、かき混ぜて、ジューっと焼くまでの一連の流れがワークになってました。私の親子クラスでも取り入れさせてもらっています。

山上 そんなに難しい手順ではないので、初めて参加した人でも、楽しくできるみたいです。それに、料理にすると、いろいろなバリエーションがつくれるんですよね。子どもたちも「餃子作りたい!」とか「シュウマイ作りたい!」とか言い出して、他のバリエーションも考えなくちゃなと思っているところです。

コ2 あの講座でやろうとしたことに「親子のコミュニケーションの手段を、ひとつ増やせないか」というねらいは、ありましたか?

山上 それははっきりと、あります。北川さんの抱っこひもの話ではないですが、やっぱり、親子でふれあってほしいから。触り方を知らない時に、「背中のハンバーグ」をまず覚えておけば、親が子どもに触わろうと思った時に、まず「じゃあ、ハンバーグやろう」っていえますよね。もしあれだけでも覚えて、毎日少しでも親子でふれあってくれれば、すごくうれしいです。

北川 親子体育のエッセンスを取り出すなら「触わる」ことは外せませんね。ほらやっぱり「面積×時間=スキンシップ量」ですから(笑)。

山上 「スキンシップの公式」ですね(笑)。

(第六回目 了)

--Profile--

北川貴英(Takahide Kitagawa)写真左

08年、モスクワにて創始者ミカエル・リャブコより日本人2人目の公式システマインストラクターとして認可。システマ東京クラスや各地のカルチャーセンターなどを中心に年間400コマ以上を担当している。クラスには幼児から高齢者まで幅広く参加。防衛大学課外授業、公立小学校など公的機関での指導実績も有るほか、テレビや雑誌などを通じて広くシステマを紹介している。

著書

「システマ入門(BABジャパン)」、「最強の呼吸法(マガジンハウス)」

「最強のリラックス(マガジンハウス)」

「逆境に強い心のつくり方ーシステマ超入門ー(PHP文庫)」

「人はなぜ突然怒りだすのか?(イースト新書)」

「システマ・ストライク(日貿出版社)」

DVD

「システマ入門Vol.1,2(BABジャパン)」

「システマブリージング超入門(BABジャパン)」

山上亮(Ryo Yamakami)写真右

整体ボディワーカー。野口整体とシュタイナー教育の観点から、人が元気に暮らしていける「身体技法」と「生活様式」を研究。整体個人指導、子育て講座、精神障碍者のボディワークなど、はばひろく活躍中。月刊「クーヨン」にて整体エッセイを好評連載中。

著書

「子どものこころに触れる整体的子育て(クレヨンハウス)」 「整体的子育て2 わが子にできる手当て編(クレヨンハウス)」 「子どものしぐさはメッセージ(クレヨンハウス)」 「じぶんの学びの見つけ方(共著、フィルムアート社)」

山上 亮ブログ:http://zatsunen-karada.seesaa.net/

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