簡単!ニコニコタッチセラピー体験。 第七回「足指」
武術家であり体の専門家である河野智聖先生に、皮膚を軽く撫でるだけで誰でもすぐに使える身体調整法“ニコニコタッチセラピー”をご紹介頂きます。第七回目の今回は足指です。
ある日のニコニコタッチセラピー講座での出来事。
講座を受ける女性たちにまじって70歳代のおばあさんが見学にきていました。
聞けば娘が講座を受ける間待っていたいとのことです。
そのおばあさんは腰痛が大変で、歩くのも不自由で講座がおわったら娘に車で病院に送ってもらうことになっていました。
そこで、「せっかくですから、モデルになって下さい」とお願いして、講座でお尻・肩甲骨・頭にニコニコタッチをおこなうと、曲がった背筋がスッキリし、「痛みが取れた!」と満面の笑顔となり、そのままご自宅へお帰りになりました。
ここで私がやったのはただ触るだけ。頑張って揉んだり、押したりせずに皮膚の流れにそってタッチングするだけで元気になる、そんなニコニコタッチをこの連載では紹介していきます。
簡単!ニコニコタッチセラピー体験。
第七回 「足指へのニコニコタッチ」
文●河野智聖
足の変形
今回は足指についてお話します。 最近私はヨガ教室の講座で手の指、足の指の意識を使うことをことを指導しています。 足指を一本一本つかんで足首をまわすという簡単なエクササイズですが、回数を重ねると足指の意識がはっきりしてきます。
多くの人は手の指を器用に動かせますが、足の指となると自由には動かせる人は少ないでしょう。普段いかに足指に意識を向けていないかが分かります。 また私たちは靴という足を守る道具で、足の感覚を閉ざし、足指を変形させてしまっています。特に女性のハイヒールは、足指に負担をかけ外反母趾となってしまっている人が少なくありません。
足裏は親指の付け根、小指の付け根、踵の三点でバランスをとっています。 土ふまずは、本来ちょうどテントのようにテンションを持ち、足裏の四方八方のバランスの崩れに対処できるようになっているのです。
ところが多くの人の足裏をみると、この三点のバランスが前後の二点になっていることが多く、さらに土ふまずがなくなってしまっていることが多いのです。 なぜ、土踏まずがなくなってしまったかというと、平らな道ばかりを歩くのでバランスを取る必要がなくなってしまったからです。
また二点でバランスを取る足はスケート靴のエッジのように不安定で、転びやすく滑りやすくなっています。これは身体だけではなく心にも影響があり、現代人が心理的に不安定であることと足裏のバランスが不安定であるのは、けっして無関係ではありません。特に最近は、こども達の足指が浮き上がってしまっているという指摘と、行動が不安定なこどもが多いのは無関係ではないでしょう。
そもそも私達の足指は地面を掴むようにできています。そのお陰で険しい山道でも、昔の人が薄いわらじで登ることができたのは、足指がセンサーとなり、個々に働いて地面を感じ、危ないところは足指が働きしっかり地面を噛んでいたわけです。 そこまで精密な動きではないものの、私がこどもの頃の昭和でも、横になったまま、テレビのチャンネルを足の親指と人差し指ではさんで変えることなど朝飯前でした。もっともこれは行儀の面で褒められたことではありませんが(笑)。
靴といい、リモコンといい、文明が発達するほど私たちは身体の精妙な動きを失ってしまっているのです。
整体的な足指の働き
さて、中医学などで足指・足裏の反射点について見かけることも多いですが、整体的にも足指についていくつかのポイントがあります。 ただ整体ではすべての足指を使わず、いくつかの指がポイントとなっています。 ここでは簡単にそのポイントを紹介したいと思います。
左足の小指
まず注目するのが左足の小指です。 この指は私自身、“不思議な指だな”と感じることが多いです。 整体の野口晴哉先生は左足の小指は、「寝小便の急処・盗癖の急処だ」と言われています。これは先生が寝小便を調整した子ども達が物を盗んでいたことから発見したといいますが、寝小便と盗癖がどう関係しているのか、私にはわかりません。 先生の経験的な発見だったのでしょう。
また左足の小指は、“自殺の急処”だとも言われています。ですから私は左足の小指が固くなっている人を観ると必ず、
「最近、人生が嫌になっていませんか?」 「自分自身が嫌になっていませんか?」
と訊くようにしています。するとこれは100パーセント、
「はい、そうです」
という答えが返ってきます。 幸いに私が観てきた人で自殺した人はいませんが、この指に体重が掛かりすぎてt疲れが抜けなくなると自分自身や人生が嫌になってしまうのでしょう。 この左小指については心理カウンセラーの人たちにもぜひ、研究してもらいたいところです。
もうひとつ、左足の小指は痔の急処でもあります。 痔は心臓異常によって引き起こされます。 死んで心臓が止まると括約筋がゆるみ肛門が開き排便するように、心臓と肛門は関係します。痔になるのも心臓に関係あり、整体的にみると痔になることで心臓の負担を軽減しているのです。そして、痔になる人は共通して左足の小指に力が集まっているというのが野口晴哉先生の見解なのです。
そう考えると左足の小指は痔にしろ、自殺にしろ、心臓に関係している部位だといえるのかもしれません。
左足の薬指
左足の薬指は膀胱に関係します。私たち整体指導者はおしっこの詰まりや、膀胱炎の際にはこの指に働きかけます。 おしっこのつまりは骨盤が捻れた時に起こりやすく、これは仙骨や左内股が急処だからです。ちょうど水の流れるホースを捻ると、水の流れが止まってしまいます。人間のカラダも同じで、左足の薬指に体重が掛かり、左内股に力が集まるような捻れ方をすると膀胱炎になったり、足がむくんだりするのです。
足の親指
足の親指も重要ですが、特に重要なのは足の親指の付け根の第一蹠骨底と呼ばれるところです。人間はこの親指の裏側に力が集まると腰が入るようになっています。逆にここの力が抜けると腰が抜けてしまうのです。 私達日本人はこのことがよく分かっていたので、足袋を履き、草履や下駄に鼻緒をつけたのです。現代人が忘れてしまった身体の知恵と言えるでしょう。
足の三、四指間
整体では指と指の間がせばまることで異常を起こすことがわかっています。足の三、四指間は「冷えの急処」と呼ばれ、冷えるとこの指と指の間が狭まるのです。 ここを押し開くようにして押さえと風邪や腹痛・胃痛といったものが抜けてきます。家庭でできる整体では、この足の三、四指間は一番使いやすくお薦めのところでもあります。特に足湯と並行しておこなうとさらに効果があがります。
足指を一本一本引っ張る
左足の小指から順番に足指を一本一本引っ張るのもとても重要です。 ここは私の師匠である岡島瑞徳先生は“起死回生の操法”と呼んでいました。
以前、内弟子の一人が、「自分の祖母が危ないかもしれないので、関西へ帰ってよいですか?」と言います。もちろんすぐに承諾したところ、「何か向こうでやることがありますか?」と尋ねるので、この方法を伝えました。 暫くして戻ってきた彼に、「どうだった?」と聞くと「起死回生しました」と答えました。
起死回生というと大げさに感じる方もいらっしゃるでしょうが、危ない状態の時にこの操法を行なうことで回復することがあるのです。
また、これはこどもの熱がなかなか下がらない時に用いていても有効です。
足指は普段あまり意識しないことが多いと思いますが、私達の身体の一番の土台です。足指・足裏・足甲がおかしくなると、足首から上の膝・股関節・骨盤・胴・首と影響を受けます。下からの歪みが倍増しながら上にいくわけです。ですから靴に小さな石ころが入っているだけでうまく歩けなかったり、少し深爪をしてしまっただけで不快になったりと、土台の影響は全身の状態や気分にまで表れます。
足指を可動性を良くするニコニコタッチ
それでは、足指の可動性を良くするニコニコタッチを紹介しましょう。 この連載で紹介するタッチは動きやすさに焦点を当てています。可動性はイコール若さと、生命力のシンボルといえます。今回の足指全体を良くする部位にニコニコタッチをする。 ことで、足指全体の動きを良くしていきます。特に専門的な知識がなくても、また特別な練習をしなくても誰にでもできるシンプルな方法です。 今回の実技のイメージは、
足の甲のニコニコタッチをする→足指全体の可動性を良くなる→関連する腰が伸びやすくなる
です。
いつもの通り、ビフォアー、アフターでご紹介しましょう。
今回は椅子に座り、つま先を地面に、そして踵をあげていきます。足指の根元の動きやすさと腰の伸びる感覚と実際が、チェックポイントです。
腰に力が入らないときは、1~2分で腰が曲がってきます。
足指の働きは、足指の縮みが改善され、五本指全体が伸びやすくなるのが目安です。 ニコニコタッチ自体は、足の甲側の指の付け根から、足首の手前まで行います。
力加減と方法はいつもと同じです。 押し込まない、力をいれない、皮膚が軽く動く程度の力加減です。スピード、力加減や回数などはこれまでの連載と同じく、1秒間の4センチぐらいのスピードで1分間以上目安(いくらやっても大丈夫です)で行いましょう。力加減は豆腐がくずれない程度でOKです。
ニコニコタッチする側の方は自然体です。写真の場合は、左手で軽くささえて 右手で、ニコニコタッチします。写真では、日常的に活用しやすい椅子での活場面を想定しています。
大事なのはやさしい気持で柔らかく相手にタッチすることです。 イメージを持ちづらい方はいつものように声をかけを行ってみてください。
「足指さん、ありがとう、ごくろうさま」 と口に出してもいいし、心の中でつぶやいても結構です。 自分で、自分をケアーするセルフケアも、同じようにおこないます。
終わったところで、踵を上げていき、五本指の根元からの可動性と腰の伸びやすさをチェックします。(1~2分たっても腰が伸びる感覚は持続します)
足指の根元からの動きが良くなると、腰が伸びやすくなります。誰にでもできるニコニコタッチで足指を整え、快適な日々を送っていただければと思います。
足のシリーズは、今回で一区切りです。次回からは、腕のシリーズを紹介します。
【講座情報】
○朝日カルチャーセンター(河野智聖 直接指導)
○セルフケアでのニコニコタッチ(初心者歓迎 指導担当・トダタカオ)
(第七回 了)
--profile--
著者●動体学創始者 河野智聖(Chisei Kono)
整体・古武術・ヨガの研究から、新しい身体理論「動体学」を編纂。東京に動体学研究所を設置、“智聖整体Life”として東京・大阪・神戸を拠点に、日本全国で講座を開いている。
動体学研究所から開発された技術は、ニコニコタッチ®・快気法・心道(整体武術)・スパイナルトーン(音の整体)・マグネティック タオ(体のNS極を磁石で調整)・チセットヨーガなどは“チセイメソッド”として発表されている。
著作に『健康になる整体武術』(筑摩書房)、『生命力を高める身体操作術』(経済界)、『日本人力』『能に観る日本人力』(ともにBAB出版)、『身心を拓く整体』『緊急時の整体ハンドブック』(ともにちくま文庫)などがある。
ニコニコタッチセラピーの講座などのはこちらからご覧ください。
Web site:Chisei Method チセイメソッド