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もっと!保健体育 第七回 「teateセラピー・有本匡男先生」 文・イラスト/伊東昌美

 中学生の時、保健体育はナゾでした。なんとなくエッチな感じがあって、でも真面目な顔をして先生は講義をしているし……。

 その当時から体育が大好きだった私は、いまでも身体のことに興味があります。ただ、その頃のナゾだとかエッチな感じだとかそんな曖昧なことではなく、もっと身体のことを知って、大人になった今だからこそ、改めてこれからの人生を一緒に生きていく自分の身体と、もっと仲よくつきあいたいと考えています。

 そこでこの連載では、私・伊東昌美が身体についてのセミナーやワークショップに参加して、それなりに自分の身体を使ってきた今だからこそ必要な、“保健体育”についてご紹介していきたいと思います。

 「もっと!保健体育」第七回はteateセラピーの有本匡男先生です。

伊東昌美のもっと!保健体育

第7回  teateセラピー講師・ホリスティックヘルスケア研究所・有本匡男先生

文・イラスト●伊東昌美

ソフトタッチという“快”

いつの頃からか私は、自分の人生のテーマとして「快の触発」ということを考えるようになりました。 イラストレーターとしてはもちろん、太極拳を教えている時も、この連載のようにボディワークの先生方からお話をうかがう時も、このテーマを念頭においています。誰かと一緒にいる時に、お互いが快い状態でいられることが、とても大切なように思われるからです。

 そして今回の「teateセラピー」の有本匡男先生の場合でも、そうでした。有本先生から施術を受けたことで、よりいっそう「身体にとっての“快”とはなにか?」について考えさせられたのでした。

有本匡男先生

有本匡男 1978年生まれ。(株)ホリスティックヘルスケア研究所マネージャー、(NPO法人)日本ホリスティック医学協会常任理事。2002年よりセラピストとして活動を開始、同時にヨガ、哲学を学び始める。2007年より世界一優しいタッチセラピー「teateセラピー」をアンダーザライトリトリート(現オーガニック整体院)で始める。現在は講演、ワークショップを通じて、「teateセラピー」の普及につとめている。 Web site ホリスティックヘルスケア研究所

 皮膚に触れること、触れられること。 人が人に触れるやり方には、すぐ思いつくだけでも、揉む、叩く、つまむ、なでる、さする、押す、刺す……と実にたくさんあります。そしてそこから得られる“快”の感覚もさまざまです。

 有本先生のteateセラピーは、皮膚にやさしく触れて施術をする、いわゆるソフトタッチの施術です。ただし触れ方は限りなくソフトですが、筋肉や骨、内臓にまで響き、影響を与えます。

やさしく触れられているだけなのに“快”なのです。

 触れられた場所とは違う場所までも“快”なのです。

 そっと触れられることで身体は、緊張がゆるんだり、やわらかくなったり、気持ちまで楽になったりします。その人の身体にとって、よき方向に変化をしていくのです。

teateセラピーのベースは『いのちの輝き』

 teateセラピーは、2008年に日本で誕生しました。オステオパシー(※)の医師として活躍された、ロバート・C・フルフォード博士の著作『いのちの輝き—フルフォード博士が語る自然治癒力』(翔泳社)の理論をベースにつくられています。

※オステオパシー:アメリカの医師、アンドリュー・ティラー・スティル(1828〜1917)によって創始された。ギリシャ語の「Osteon(骨)」「Pathos(病理、治療)」を語源とし、日本では指圧や整体などの手技療法に大きな影響を与えている。

私も以前、友人に勧められてこの本を読んだことがあります。でも当時はまだピンとこなかったのに、今回施術を受けて「こういうことか!」と気づかされたことがあります。

 それはホリスティック=全体性という考え方です。

 『いのちの輝き』の一節をあげるなら、

「治療がうまくいって治療室をでていくとき、患者はからだが楽になっているだけではなく、こころも軽くなっているということだ。からだとこころは確実にひとつのものであり、どちらかがよくなれば、もうひとつのほうが自然に楽になっている」(太字は筆者による)

 といったあたりでしょうか。

 ホリスティックな身体観について、有本先生はこうおっしゃいます。

ホリスティックとは

 「オステオパシーは、それ自体がひとつの“医療哲学”と呼ばれるほどの体系化された考え方をもっていて、

  • 人間は全身の調和をもって「健康」といえる

  • 身体をパーツではなくてユニットとして考える

  • 身体は機能と構造が一体である

  • 自然治癒力を大切に扱う

といった原則があります。

 そしてteateセラピーは、なかでも人間の全体性について掘り下げた“フルフォード式オステオパシー”をベースにしています。

 ですから施術を受ける方には、teateとは

  • 手を当てることにより全身を整える、世界一優しい心身調整法であること

  • クライアント自らの自然治癒力を引き出すのを目指していること

 を、最初にお伝えしています」 とのこと。

 こうしたteateセラピーの基本の考え方を知ったところで、施術を受けることになりました。

施術は丁寧な問診から

 施術はまず、最近の体調や、かつてのケガや病気、身体でいま気になることなどについて、問診を受けることからはじまります。施術する側がクライアントの方を知る、そしてクライアント自らが身体と対話する準備を整える、大切な時間でもあります。

 私の場合は、イラストを描くのもお箸をもつのもすべて右利き。なのでふだんの生活では、右側に負担が極端に偏り、いつも疲弊している感じがすること。忙しくなると、首、肩、腰、背中、すべて右側が疲れて固くなることなどをお話ししました。

丁寧な問診

有本先生がここで説明されたのは、“痛み”についてです。身体のハリやコリがひどいクライアントのなかには「私はいま、別に痛みを感じていないのですが……」という方も、かなりいるそうです。

 それは「痛みがあるのはよくないことだ!」と考えていたり、我慢が習慣化していたりすることで、すでにある痛みを“なかったことに”して、乗り切ってきたから。

 まるで火災報知器のスイッチをオフにしたまま「火事なんて起きていない!」と、思い込もうとしている状態です。

 実際に、施術後に感じた痛みがきっかけで病院で検査したところ、腫瘍が見つかったという方がいたそうです。

 痛みをきちんと感じることができて初めて、身体はよき方向に向かいます。 痛みを感じないままだったら、腫瘍は見つからなかったかもしれません。

 なるほど、痛みとはまさに報知器の役割なのですね。

「春の小川」のようなすがすがしさ

 問診の後はいよいよteateセラピーの本編、手技を受けます。施術の流れは、

  1. 立った姿勢で、身体のゆがみや滞りを視診

  2. マッサージ台の上にうつぶせ寝になってのteate

  3. 仰向けになってのteate

と、大まかに3つあります。

 私の場合は、うつぶせ寝になった時は背中や首筋を、仰向けになった時は足首、骨盤、横隔膜、肩、頭部をタッチされたのですが、受ける方の状態によっても施術の内容は変わってきます。

teateセラピーを受ける

 ただしteateセラピーは全身の関節すべてに働きかけるので、触れられた部位以外にも、全身が調整されていきます。

 「手の親指に詰まりがあることで、肺の経絡に詰まりが出ることもあります」

 と有本先生。これは、一見まったく関係がないと思われる親指に触れられるだけで、肺の経絡の詰まりがとれ、呼吸が楽になることもあるのだそうです。

 私の場合は、仰向けになって足首のあたりを触れられていた時に、右足だけがビヨ〜〜〜ンと長く伸びた感じがしました。体感として、その伸び方はかなり長く、10センチも20センチもビヨ〜〜〜ンと伸びたように感じました。

 実際には、ほんのわずかに身体がゆるみ、ゆがみがとれているだけなのでしょうが、受けている方としては、極端に身体が伸びた感じがします。そして大きな滞りから解放されたような「すがすがしい快」がありました。

 頭に触れられている時には、(ちょっとマニアックですが)頭蓋骨の中でナニカが流れている感覚も。そのナニカは、さらさらと水が流れるような心地よさで頭の中を巡っていきました。このまるで“春の小川”のような感覚もまた、「すがすがしい快」を私に与えてくれました。

 施術を終え、もう一度立った状態をみてもらいました。左肩が大きく下に落ちていたのがまっすぐになり、目の奥がすっきりとした感覚がありました。

 また今回は1回の体験でしたが、通常は3回をひと区切りに施術するのだとか。最後の回で状態を見ながら、その後も継続するかなどを相談するそうです。

シンプルに、ただ“触る”

 今回、teateセラピーを受けてみて印象深かったことがあります。 それは「teateセラピーは、とても“メカニカルな施術”なのだなあ」ということでした。

 メカニカルとは、なにかこうカチっとした理数系な感じ、綿密な設計図から身体という建物を再構築するような感じ……とでもいうのでしょうか(あくまでイメージです)。

メカニカルな施術とは

 この感覚を伝えたところ、有本先生は、 「それは今の僕自身が、あえてメカニカルな検証をしながら施術をしているからかもしれませんね(笑)」とおっしゃいます。

 続けて 「teateセラピーはあくまでもシンプルに、“ただ触る”という施術です。それを“おばあちゃんの知恵袋的な teate(手当て)”とか、“すべての戦略を放棄したteateセラピー”という言い方であらわすこともあります。

 触ることならば誰にでもできますし、できればお母さんがお子さんにteateするなど、家族や身近な人に触ることで

『誰の手でも、誰かを癒しその人の全体性を整えることができる』

ことを、より多くの方に知っていただきたいのです。

 それには、テクニックをどんどん減らして“ただ触る”ことを深めていくことがひとつ。

 そして誰もがそれをできるように体系化をしていくことがひとつ。

 こうした未来に向けて、納得のいく説明を用意しておくために、僕自身が日々、検証を積み上げているところです」

とのこと。

teateの手のつくり方

 teateセラピーを誰もができるようになるために、有本先生が所属するホリスティックヘルスケア研究所では、不定期にteateセラピーの講座が開かれています。

 そもそもフルフォード博士の考え方を学ぶため『いのちの輝き』の読書会からはじまったそうですが、現在では1day体験講座、入門講座、中級講座があり、参加者はのべ1,600人にものぼるそうです。

 今回の取材に同席された、teateセラピストの大原廣恵さんは、  「私もこの講座の卒業生です。学び始めたころは家族を触らせてもらおうとしても、よくわからないなーと言われて敬遠されていたりしたのですが……だんだん家族の方から『ここの具合が悪いから(頭や肩を)触って』といわれるようになりました」  と笑います。

講座では、触れる側の心得として

  • 手のつくり方(冒頭イラスト参照)

  • 触れるときの施術者の立ち位置(前のめりにも、下がり過ぎにもならない感覚をつかむ)

ことを一から学んでいくそうです。

有本先生に「手のつくり方」を習う

 有本先生からは実際に「手のつくり方」を教えていただいたのですが、指の第1関節をしっかり固定し、爪の先からやさしく関節と関節の間をほぐしていくと、節のところで滞っていたのが、すっとつながる感じがします。

 コンセントをプラグに差し込んだ時に、ちょっとズレていたのを直すと、ぱっと電気が流れるでしょう? あんな感覚がありました。

 最後に、有本先生の考える<ホリスティックな生き方>について質問してみると「無敵で生きること」という、ちょっと意外な答えが返ってきました。

 その真意とは、

 「無敵とは、敵のない世界、弱者や敗者の存在しない世界という考え方です。病気がなければオーケー、健康なのではなく、すべてを敵視せずそこに内包されている深い意味や訴えに目を向けること。

 『自身がバランスのとれた健康状態で過ごしつつ、世界平和に貢献する生き方』ということです。

 そのためのツールとして、このteateセラピーを有効につかっていただけたらと思っています」

 と、終止穏やかにお話しされる有本先生。選ばれた言葉一つひとつにはまさに、<いのちの輝き>が宿っているかのようでした。

※1 teateセラピーの「1day体験講座」が5月7日に、「入門講座」が4月16日、17日に開講されます。講座内容につきましては、ホリスティックヘルスケア研究所のサイト(http://holiken.net)をご覧ください。

(第七回 了)

-- Profile --

伊東昌美(Masami Itou)

著者●伊東昌美(Masami Itou)

愛知県出身。イラストレーターとして、雑誌や書籍の挿画を描いています。 『1日1分であらゆる疲れがとれる耳ひっぱり』(藤本靖・著 飛鳥新社) 『舌を、見る、動かす、食べるで健康になる!』(平地治美・著 日貿出版社) と、最近は健康本のイラストを描かせてもらっています。 長年続けている太極拳は準師範(日本健康太極拳協会)、また足ツボの免状取得、そしてクラニオセイクラル・セラピーというボディワークも学び、実践中。健康についてのイラストを描くことは、ワイフワークとなりつつあります。自身の作品は「ペソペソ」「おそうじ」「ヒメ」という絵本3冊。いずれもPHP出版。 Facebook https://www.facebook.com/masami.itoh.9

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