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もっと!保健体育 第九回 「進化論的身体ワーク(ESW、愛称:アニマル進化体操)・田中ちさこ先生」

  • 2017年3月3日
  • 読了時間: 13分

 中学生の時、保健体育はナゾでした。なんとなくエッチな感じがあって、でも真面目な顔をして先生は講義をしているし……。

 その当時から体育が大好きだった私は、いまでも身体のことに興味があります。ただ、その頃のナゾだとかエッチな感じだとかそんな曖昧なことではなく、もっと身体のことを知って、大人になった今だからこそ、改めてこれからの人生を一緒に生きていく自分の身体と、もっと仲よくつきあいたいと考えています。

 そこでこの連載では、私・伊東昌美が身体についてのセミナーやワークショップに参加して、それなりに自分の身体を使ってきた今だからこそ必要な、“保健体育”についてご紹介していきたいと思います。

 「もっと!保健体育」第九回はESW(愛称:アニマル進化体操)開発者の田中ちさこ先生です。

伊東昌美のもっと!保健体育

第8回 ESW開発者・田中ちさこ先生

文・イラスト●伊東昌美

もっとメイン

ESWって何?

「人間って、おとうさんの精子がおかあさんの身体に入って、赤ちゃんになって生まれてくるまでに、卵から魚になって、は虫類になって両生類になって四つ足の獣になって、人間になって……

 という過程を、全部たどって出てくるんですよ。すごいでしょう?」

というお話を、私は永六輔さんの講演でお聞きしたことがあります。

 これは、エルンスト・ヘッケル[1834-1919、ドイツの生物学者、哲学者。ダーウィンの“進化”の考え方に賛意した「反復説」で知られる]が唱えた

個体発生は系統発生を繰り返す(反復説)

のことだったのかもしれないと、今回の取材を通じて初めて知ることができました。

 今回、学んだのは「進化論的身体ワーク(愛称:アニマル進化体操。以下、ESW)」です。これはレイモンド・ダート博士[1893-1988、オーストラリアの人類学者。世界で初めて猿人(アウストラロ・ピテクス)の化石を発見した]が考案した「ダートプロシージャー」がもとになっています。

 レイモンド博士はこれを、アレクサンダー・テクニークの教師とともに開発したそうですが、さらにわかりやすく、誰もが体験できるワークとして、田中ちさこ先生が翻案しなおしたのが「ESW(Evolutionary Somatic Work、愛称:アニマル進化体操)」なのです。

藤原ちえこ先生

田中ちさこ アレクサンダー・テクニーク教師(ATI認定)、ベイツメソッド教師、(英国College of Vision Education 卒)、ソマティック・エクスペリエンス®プラクティショナー。代替医療に興味を持ちアロマ&頭蓋仙骨療法(クラニオセイクラルセラピー)を学ぶ。 アレクサンダー・テクニークに出会い肩・首の緊張が劇的に軽減。福島での震災・原発事故を機にベイツメソッドを勉強し、回復。眼を含むからだと心、意識、注意 神経系(自律神経)などトータルなアプローチを行っている。 Web site With A

ESWとの出会いは、「できませ〜ん!」

 実は私、このESWと最初「できませ〜ん(涙)!」という出会い方をしました。

 え? さっき“誰もができるワーク”と書いてなかった?

 そうなんです、私もそのつもりで、ESWのワークショップに参加したのです。

 でも。このワークの最初に出てくる“卵のワーク”(あとで何をするかは説明します)で、卵になるためには、<肩が入る>という姿勢をとる必要があるのに、私にはできなかったのです。

 保健体育好きの私なのに、ワークができないなんて!

 このままでは、モヤモヤしただけで終わってしまう!!

 でもきっと、できたら楽しいワークに違いないのに!!!

 と感じた私はワークショップ後、ちさこ先生に食い下がり、今回の取材をお引き受けいただいたのでした。

 ちさこ先生は、第一印象から<とってもキュート>。その後、取材も含めて何度かお会いしましたが、<いつだってキュート>。この第一印象は変わりません。ただしキュートな外見からは想像できないような“知的好奇心”が、内面にたぎっています。

 ESWをメソッドとして完成させることを第一にするのではなく、ワークショップなどを重ねる中で得た気づきを加えながら、「もっと! もっと!」と意欲的に日々、ESWを進化させている方なのです。

丁寧な問診

ちさこ先生のワークショップはいつもヨロコビが弾ける

ESWで「卵になりきる」

 このESWは、以下のような生物の進化の過程に沿って、身体を動かしていきます。

卵→魚→ヘビ→ワニ→チーター→ゴリラ→マサイのジャンプ

 たとえば、魚ってどんな形? どうやって動くの? 動いた時、身体はどんな感覚がする? ということを、実際に動きながら学んでいきます。

 進化のどの過程から始めても、またどこかのパートだけ単独で行ってもいいそうですが、私はできなかったところからやりたかったので、ワークの一番目“卵のワーク”からやりました。

 ワークのはじめ、ちさこ先生は必ず、「なりきるのよ〜! 人間が卵のマネをしたり、魚のマネをしたりするんじゃないの。卵になりきるの。魚になりきるの。そのものになってください!」とおっしゃいます。

 つるんとした卵に“なりきる”のですから、身体のどこかがトンガっていては、卵とはいえません。このトンガリをなくすために<肩を入れる>姿勢をとるのですが、最初の時にはこれがうまく、私には理解できなかったのです。

 卵のワークでは、肩を入れて頭を床の方に沈めていきながら、身体をきれいに丸めてコロンと転がります。その時、ちさこ先生からは、「目を開いたまま、力を抜いていってください。それがポイントです」と指示が入ります。むむ……これってけっこうむずかしい。力を抜こうとすると、つい身体のクセで目を閉じてしまうのです。

「卵のワーク」のデモをする高椋浩史さん(アレクサンダー・テクニーク教室FUN! 代表)

「卵のワーク」のデモをする高椋浩史さん(アレクサンダー・テクニーク教室FUN! 代表)

 そこでいきなり床の上で転がるのが難しい場合は……と、私は椅子でこの動きをすることになりました。

 力を抜いて椅子に座わります。そして首が左に動く時には右目を左に動かし、その目線の先を追いかけるように、上半身をゆっくりとひねっていきます。目の動きにつられて、肩先がゆっくり身体の内側に丸まっていきます。“目が見ている先”に“身体の動きがついていく”感じです。「目を閉じちゃだめよ!」このちさこ先生のひと声サポートのおかげで、今までできなかった姿勢が、難なくとれるようになりました。

 そして重ねて、ちさこ先生の「なりきるのよ〜! 卵のマネをするんじゃないの、卵になりきるの。そのものになってください!」という言葉を何度も思い返しながら、頭の中に“卵そのもの”の画像を思い描き、その画像に意識を集中させるようにしました。頭の中にはぽっかりと卵の画像(これが私、私は卵、卵、卵、卵……)。コロリン。できました!

「卵のワーク」をする伊東さん

「卵のワーク」をする伊東さん

 この一連の動きがスムーズにできるようになると、「コロリン」の時にちっちゃな快感がわいてきます。子どもの頃に肩車やおんぶをしてもらって、きゃっきゃと声をあげて喜んでいた時の快感に似ています。心の奥で(フフフン♪)とハミングしてしまうような、そんな小さな快感です。

 まん丸の身体なら、仰向けにひっくり返ることができる。私は今ココにいて、ココに存在している身体が動いているんだ。そんなことをまず実感できる動きが、卵のワークなのでした。

陸上に這い上がる

 そして今回体験したワークのなかでも、私が泣きそうに感動したのは、『水の中にいた動物が、どうすれば上陸できるか?』というテーマの“ワニのワーク”についてでした。

 以前フランクリンメソッドのワークショップに参加した時、ひざの半月板のデリケートな働きについて講義を受け、感動したことがあります。

 身体の各パーツが持つ機能というか、<そのように動いてしまう>ことを、自分自身の身体で体験してみると、「生き物の身体ってなんて精巧にできているんだろう! すごい!」と大感動してしまったのです。

 水中でえら呼吸をしていた生き物が、肺を持ち、後ろ足で動けるようになり、やがて水中から陸へ上がっていく。水中では難なくできていた動きが、陸上ではままならなくなります。

 魚は足などなくても自由に水中を泳ぐことができますが、ワニになりきって水中から陸上へ這い上がるには、足をもたない限り動くことができません。この時、生き物はいったい、どのような動きへと進化をとげるのでしょうか?

「ワニのワーク」の説明をするちさこ先生

「ワニのワーク」の説明をするちさこ先生

 私は理屈を考えるより、<ワニになる>ことに専念しました。床に腹這いになり、“ワニになりたい”魚の私は、前に移動しようと試みます。ここでも<なりきり>が大切。

 「なんとか陸に這い上がりたい! でもこのままでは陸で動けない。どうやったらそのための一歩が踏みだせるんだろう?」と、身体の可能性をゆっくり探ってみると、片方の骨盤が少しだけ浮きました。

 そちら側の脚を進行方向(前方)に引き上げると、膝のあたりが前に出ます。その膝を床に押し付け、前にグイっと身体を押し進めると、今度は反対側の骨盤が少し浮くのです。

 今度は反対の脚で同じ動きをします。一歩一歩、わずかながらも前に進むたびに、自分が魚からワニになっていく感じがします。前に進む時に、ワニが身体が左右にクネクネさせるわけは、実際に動いてみると、なるほどと思いました(ぜひ何かの機会に、ワニの動きを観察してみてください!)。

 この動きをくりかえしていると、

  • ワニの太ももはどうしてあんなに立派なのか?

  • 後足とくらべて、なぜ前足が短いのか?

  • 後足の筋肉量より、前足はどうして少ないのか?

が、なんとなくわかるような気がしました。

前に進むのに、実は前足はほとんど必要ないのです。後ろ足を上手に動かすことさえできれば、前に進むことができます。後ろ足(先生の言い方では“後輪駆動”)と、それの動きを支える骨盤が必要です。

 「このワニのワークを私は、“上陸作戦”と呼んでいるの。海の中にいた動物が陸に上がるって、すごく大変なことなのですから」と、ちさこ先生は語ってくれました。

 そうなのです。生物は気が遠くなるような時間をかけて、ゆっくりと進化を続けてきました。なかでも「水中から陸上へ」という過程は、最もハードに環境への適応を強いられた進化ではないかと思うのです。

 ワニがどうして、あのような皮膚を持ち、

 ワニがどうして、あのような体型になり、

 ワニがどうして、あのような動きをするのか?

 それぞれのからだに、その答えがしっかりと刻まれているのです。細部に宿る進化の過程。これはとても壮大な営みです。このような感慨を抱かせた<上陸作戦>の偉大さに、私は感動をおぼえたのでした。

男性に大人気、マサイのジャンプ

 そしてワークショップに参加する方のなかでも、特に男性に人気なのが、ESWの7つの動きの最後にある「マサイジャンプ」です。

 マサイ族の男性が強靭なバネを活かしてジャンプする姿は、以前、CMなどでも評判になりましたが、まるでそんなマサイの戦士になったかのようなジャンプを体験できるのが、このワークです。

 これは、卵から始まるこれまでの6つの動きで体得した<身体の軸をつくる>ことの総仕上げです。マサイのジャンプができるようになると、「今まで自分がジャンプしてると思っていた動きはなんだったんだ?」と思うくらい、ビヨ〜ンビヨ〜ンとしなやかに、上空高くジャンプができるようになります。

 ワークショップのたびに「で、マサイジャンプやらないんですか? これだけでも体験したい!」と強力なリクエストがでるのは、わかる気がします。

 マサイジャンプでは、ひざを使ってジャンプしようとするのではなく、体全体で上に向かいます。さらにジャンプする時に槍を持つポーズをとると、マサイの戦士に“なりきって”飛ぶことができます(笑)。

 ちさこ先生は、ジャンプする人のわきに立って動きをサポートしてくださりながら、「背中背中背中!!」と、何度も言われます。このジャンプができるようになるには、背中の意識が大きなポイントのようです。

 実際私は、このワークによって<背中がある>という事実を、これまでなかったくらいくっきりと自覚しました。

「マサイジャンプ」のために背中を意識する

「マサイジャンプ」のために背中を意識する

 ふだん私たちは、背中の存在なんて、考えたこともないのではないでしょうか。けれどESWのワークには、背骨を意識したり、背面を使ったものが多いので、「あぁ、私って背中があったよ〜」という身体感覚を取り戻すことができるのです。

 自分では見えないけれど、私には背中があるんだ、という認識。お腹と背中の間には内臓があり、私の身体は3Dなんだ、ということ。これらのことが、理屈ではなく感覚として感じられるようになりました。

身体感覚ってなんだろう?

 ちさこ先生はワークショップの間、何度も「なりきってください、そのものになってください」とおっしゃいます。

 ワークを体験してみると、これには「身体感覚に気づいてね」という意味が含まれているのではと感じました。

ESWは、進化の過程を身体で体験するものです。それも<もし卵だったら>とイメージするのではなく、<わたしは卵>になりきるのです。ここが、ESWらしいやり方です。

動物そのものになりきる。動物の進化の過程を動いてみる。

 こうすることで、イメージするだけでは動かなかった身体の内部が動きだし、力んだり負荷をかけなくとも、身体が本来もつしなやかさを取り戻せる感じがします。

丁寧な問診

身体感覚に気づくための包帯ワーク!?

またESWでは、身体に負担をかけるハードな動きはありません。卵になったりワニになったりするのはどういうことか? どうやって身体を動かすのか? それらをゆっくりゆっくりとていねいにたどっていくことで、身体の芯のところがほぐれていくようです。

 *

 ちさこ先生は、ワークショップを各地で開かれるだけでなく、現在もご自身の学びのために、日本のみならず海外でもレッスンを受けておられます。

 先生がそうやって得た知識や経験によって、ESWはさらにわかりやすく、さらに身体感覚を取り戻しやすいものへと、磨き上げられていくことでしょう。

 そして生き物の身体が、長い長い年月をかけて進化してきたように、ESWもまた、もっともっと!  “進化”をとげていくのだろうと思います。私はマサイのジャンプをもう少し、できるようになりたいので、いつかまた、ESWを体験しにいこうと思っています。

ちさこ先生、伊東さん

(第九回 了)

日本ソマティック心理学協会が主催する「第2回ソマティックダイアローグ2017」に、田中ちさこ先生が登壇されます。

3つのコラボ企画からなる興味深いイベントですので、ぜひご参加ください!

「第2回ソマティックダイアローグ2017」

☆日時:2017年3月17日(金) 10:00〜17:20

☆会場:座・高円寺 B2F 阿波踊りホール(杉並区立杉並芸術会館内) 

☆主催:日本ソマティック心理学協会

☆イベント告知ページ:https://soma-pra-net.jimdo.com

☆内容説明:

身体と心のつながりの探求と実践のサポート、それが日本ソマティック心理学協会の目的です。

この春、“ソマティックダイアローグ”を今再び開催いたします。人と人が集い、触れ合う。

動き・感覚・感情・言葉を通して、体と心と魂のすべてが“今ここ”に出会う。

メインテーマは、“西のソマティックと東のソマティックの出会い。”

〈ソマティック〉に関わるエキスパート同士の間に生まれる〈ダイアローグ〉(対話)に、共にわくわくしましょう。

☆プログラム(開場:9:30)

◎ダイアローグ#1 (D1)  10:00〜11:50

田中ちさこ + 瀬戸嶋充

「アレクサンダーテクニークと野口体操との出会い~その根底を成す人間観を探る」

◎ダイアローグ#2 (D2)  12:50〜14:40

高野雅司 +クンチョック・シタル with 合田秀行

「ボディ・マインド・スピリットの統合的探求に向けて~チベット密教とハコミセラピーの対話」

◎ダイアローグ#3 (D3)  14:50〜16:40

内田佳子 + 宮河伸行

「いのち・躍り・再生」

◎交流会「ソマティックカフェ」 16:50〜17:20

-- Profile --

伊東昌美(Masami Itou)

著者●伊東昌美(Masami Itou)

愛知県出身。イラストレーターとして、雑誌や書籍の挿画を描いています。 『1日1分であらゆる疲れがとれる耳ひっぱり』(藤本靖・著 飛鳥新社) 『舌を、見る、動かす、食べるで健康になる!』(平地治美・著 日貿出版社) と、最近は健康本のイラストを描かせてもらっています。 長年続けている太極拳は準師範(日本健康太極拳協会)、また足ツボの免状取得、そしてクラニオセイクラル・セラピーというボディワークも学び、実践中。健康についてのイラストを描くことは、ワイフワークとなりつつあります。自身の作品は「ペソペソ」「おそうじ」「ヒメ」という絵本3冊。いずれもPHP出版。 Facebook https://www.facebook.com/masami.itoh.9

 
 
 

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