top of page

小笠原和葉×藤田一照「宇宙と感情と身体」 第一回 考えること、感じること

 本サイト連載「生きる練習、死ぬ練習」でもおなじみの藤田一照さん、『システム感情片付け術』(小社刊)の著者・小笠原和葉さんの対談を、三回に分けてお届けします。

 第一回は、和葉さんの本の感想を皮切りに、ボディワーカー気質について、身体感覚を取り戻すには? など、縦横無尽に語っていただきました。

対談/小笠原和葉×藤田一照 「宇宙と感情と身体」

第一回  考えること、感じること

語り●藤田一照、小笠原和葉

構成●阿久津若菜

小笠原 「考えるよりまず、身体からいく」方が、到達できるまでの時間がずっと早い。脱力、委ねていく、サポートを感じる、といった身体の感覚があると、こういう生理学的な状態を体験できる。その体感からもう一回、経験をたどりなおして考えた方が、リラックするまでの時間が速いんじゃないかなと思います。

コ2編集部(以下、コ2) 『システム感情片付け術』(小笠原和葉著、以下、本書)を読まれて、一照さんはどのような感想をもたれましたか?

藤田一照(以下、藤田) すごくおもしろかったです、わかりやすいし。もう一気読みしました。

 3章のエクササイズは、今回のアメリカでの坐禅指導のいろいろな場面で使わせてもらいました。特に「サポートを感じる」ワーク(本書112ページ)。あと「肺の大きさを感じる」ワーク(本書114ページ)もやりましたね。

「サポートを感じる」ワーク(『システム感情片付け術』112ページ)

「サポートを感じる」ワーク(『システム感情片付け術』112ページより)

僕も以前から、自分の坐禅会などでも話しているんです。“床からの支えを感じる”とか、“グラウンディングする”とか。でもこのエクササイズのように「坐った時に後ろに広がっている空間を感じる」という視点はなかったので、いろいろ試させてもらいました。

 「“大木に寄りかかるように、後ろの壁にもたれる”というイメージで、すごく自分の坐り方が変わった。姿勢が全然違った」という感想をもらいました。「なににも寄りかからずに坐らねば!」と思っていたのかな? アメリカ人って、そういうまじめな人がわりと多いから。

小笠原和葉(以下、小笠原) ありがとうございます。アメリカのFacebook本社などで講演をされた折に、本のエクササイズを試して頂いたという話をきいて感激しています。

「正しいところにコントロールしよう」と思って坐るのは、大変ですよね。脱力とかリラックスを習っても、抜いた力を委ねる先を見つけていないと、「リラックスするのが怖い」という感覚になりますから。

藤田 基本的に人間の身体って、下から支えてくれるサポートを本当に意識できた時に、リラックスできる。僕自身も、「そこに委ねていくからリラックスできる」と今まで言ってきたのですが、この本のように“後ろの空間を感じる”という発想はすごくおもしろい。僕もやってみてなるほど、と思ったので、よく使わせてもらってます。

小笠原 この本で扱っているエクササイズは、ボディーワークの世界ではそんなに目新しいことではないと思っているんです。ですがボディワーカーは、科学者というか職人気質の人が多いので、「このエクササイズ、すごい! できるだけたくさんの人に教えよう」となるよりは、セッションルームで“秘技のように”、一対一で伝えていることの方が多い気がします(笑)。

藤田  日本人がやるから職人気質になるということですか? でも僕が知っているボディワーカーは……ああ「類は友を呼ぶ」というやつか。僕自身、「なんて落ち着きのない禅僧だ」と言われることがあります(笑)。

小笠原 ​あはは。「忙しくなるのはイヤだから、あんまり外に宣伝しない」という人たちが、ボディワーカーには多いのかもしれません。反対に私みたいに落ち着きのない人は「もうちょっとワークを受けて、落ち着いたほうがいいんじゃない?」という感じです(笑)。

 でもボディーワークのことを知らないし、ふれる機会もないけれど、実はそこで行われていることが日常の役に立つ人たちが、すごくたくさんいると思います。

和葉さんのリードで「指先レーザー」のワークを体験する一照さん

和葉さんのリードで「指先レーザー」のワークを体験する一照さん

藤田 サポートとリラックスの関係でいえば、脳性麻痺の子たちにイスを作っている方の本を読んだことがあります。

 脳性麻痺の子の身体は、常に過緊張の状態。かつてはそれを、ギュウギュウ揉んだりひっぱたりして物理的にリラックスさせようとした時代もありましたが、本来は神経系の問題なので、そのやり方では合わないわけです。

 その方が作る、材質も形も考え抜かれたイスに坐ると、子どもの身体がフワッと緩む。そうすると身体の形が変わるから、今度はまたその形に合わせて新しいイスを作って……ということを続けるうち、気づくと身体がリラックスした状態に変わっていくようです。

 「アフォーダンス(※1)」の理論に基づいているわけですよね。僕らは常に、環境からアフォードされる情報を受け取って応答しているのだと思います。あのエクササイズで後ろの空気の壁からもアフォードしてもらえるようになる。

(※1)「与える、提供する」を意味するafford(英)から、心理学者のジェームズ・J・ギブソンがつくった造語。環境が生き物に意味を提供し、行動が引き出されること

小笠原 なるほど。一照さんが試してくださった「サポートを感じて初めて、人はリラックスする」ことを、この方は実践されているのですね。すごくシンプルで、たくさんの人に役立つ概念だと思うのですが、でもあまり聞かないですよね。

 今回の本では「感情の片付け方」の説明として、ソマティック・エクスペリエンス®(以下、SE)という、トラウマ療法の理論をベースにしています。SEでは、リラックスした感覚を得ることを「タイトレーション(titration=中和適定)」と呼び、リラックスの感覚を得る過程をゆっくり進めるほどよいと考えています。

 一気に楽なところへ解放するのではなくて、1滴ずつリソースを加えていく。そうすることで、身体の中ではジワジワ変化が起きているのだけど、外からは見えない。でもある閾値(反応が起きるのに必要な最低限の刺激)を越えた時に、急に中和する時が来て全体の色が変わるみたいな。

“支えを感じられる環境”から“安心感を受け取って”、自分の中のリソース(※2)が満ちてくると、ちょっとずつ緊張が外れていく……という経験を、クライアントの方にしてもらうんです。

(※2)私たちを元気にしてくれたり、いい感じにさせてくれたりするもののこと。本書166ページ

藤田 和葉さんは、SEを施術の柱にされているのですか?

小笠原 いえ、クラニオセイクラル(頭蓋仙骨療法。以下、クラニオ)を中心に、SEは現在トレーニングを受けているところです。

 日本では、クラニオの施術一本で食べている人はあまりいないと思うのですが……それは、“クラニオを受けるととてもいいことが起こる”ことを、施術者自身は経験しているのに、どういうことかを説明できないからかもしれません。圧でギュウギュウ押すわけではないですし、心の中で語りかけるみたいなことがメインの施術なので。

 でも、なぜいいことが起こるかという理屈を整理できないと、次からの再現性があるかわからないですから。 私自身クラニオを学びにいった時、いきなり先生に「宇宙のエネルギーとつながってください」と言われて、ちょっと面食らった記憶があります。

藤田 「エネルギーって、単位はジュール(J)ですか? ニュートン( N)ですか?」みたいな感じでしょうか(笑)。

小笠原 そうなんです! 「エネルギー」という言葉の使い方がフワッとしていて、一体どういう意味で言っているの? と思いましたし。さらに「心の中で脳脊髄液に語りかけてください」と言われてしまうと……。

藤田 宇宙物理を専攻したリケジョとしては?

小笠原 要するに許しがたい感じだったんです(笑)。でもそこはマジメに、言われたとおりに脳脊髄液に心の中で語りかけてみると、たしかに脳脊髄液の動きが変わるんですね。何回も何回も自分で実験してみて、「あ、これは統計的に有意だ」って。

藤田 単なる偶然ではない、そこに確かに何か関連があると。

小笠原 はい、偶然ではなくて、ちょっと語り口や見方を変えると……。

藤田 必ずそこに、まだ知らないけれども、何か因果関係がある。

小笠原 偶然ではなくて、「“語りかけると、脳脊髄液が何らかの反応をする”という実験結果は、統計的に有意だ」と自分が納得したとたん、「まずいことが起こってしまった。エネルギー保存則はどうなってしまうんだ!」という気持ちになりました。

藤田 ハハハ、なるほど。物質世界に意識が作用するというのは、今の心身二元論のパラダイムでは起こってはいけないことですからね。二つのまったく別の実体なんですから。そこに何かが働くとなると、ある種の念力現象になっちゃう。

 ではクラニオを施術してもらった人は、その“いいことが起きている”のを実感されていますか?

 僕も何回か、アメリカで受けたことあるんです。おもしろかったですね、特にあの「タイド」と呼ばれる体内のリズム。「これはすでに知っているものかもしれない」とは感じましたが、「いやいや、本当?」みたいな気持ちにもなりました。

小笠原 まさに私、クラニオを学んでもらうワークショップでは、その「リズムを感じろ」と絶対言わないように気をつけているんです。

藤田 僕も最初は何もわかりませんでしたね。BMC(ボディ・マインド・センタリング®)というボディワークがあるのですが、その先生でクラニオも施術されている方のワークショップに出た時、「まず触ってごらん」というんですよ。 仰向けになってる人の足とか、肩とか。でも触っても何もわからない。「何か感じますか」相手に聞きながら触れるだけで、あんまり圧をかけて押さないし。

 「これは何だろうな」という感じでしたが、先生が僕の上から手を当ててくれて、その動きを拡大してくれた時に、しばらくやっていると「ああ!」という感じでした。それからは先生が手を離しても「あるある」という感じがつかめました。

小笠原 追いかけると見えなくなってしまう。意識のピントが、そこに合うか合わないか、ですから。

「悩むことで、現実との直面を避けているんですね」(伊東さん)

藤田 そうそう。照準が合ったところで「ああ本当だ、わかる」と思いましたね。それがまず最初。

小笠原 それは一照さんが瞑想などをなさっている方だから、意識のピントがそこに合ったことに、一瞬で気づかれるのではないかと思います。私も最初、クラニオのタイドがわかるのに、すごく時間がかかりました。

藤田 「こういう感じだろう」と、勝手に予想しているとダメなんですよ。悟りと同じ。悟る前に「悟りってこんなもんだろう」という思いをアテにして、それをよすがにしてやるのは、「芳(かんば)しからざることなり」と道元さんは言っているので。

 実は全然違うんだということは、今の僕らの展望の中に入っていないことなのに、どうしてもこんなもんだろうと予想してしまいがちなんですよ。だからこちらから自分の予想する動きを捕まえにいこうとして、ムダな時間を過ごしてしまう。

小笠原 そうですね。探している所が全然見当違いだから、ムダでもったいない時間になってしまうんですよね。

 一照さんと山下良道さんとの対談『アップデートする仏教』(幻冬舎新書)に何度も登場する「シンキング・マインド」のように、考えて、精査して、検証するような探し方を、大体、行動の枠組みとして皆もっていると思うので。

藤田 時にはそれも、必要なのかもしれないですけどね。

小笠原 「正しいものを見つけないといけない」と言われると、むやみに緊張してしまいますし。そもそも“感じる”ことの体感がよくわかってないので、頭で探しにいってしまう。だから私は、ワークショップではタイドの話はあんまりせず、うやむやにしておきます(笑)。

 その代わり、身体の自己調整の話をとにかくしています。 「身体にはいろんなことがたくさん起きているので、手で感じるものは何でも楽しんで感じてください」とお伝えしていると、「おもしろい」「意外に何か動いている」と、気がついた中でタイドを見つけられる人もいるし、そうでない人もいるし。

 最初から“正しいものをとらえる”という緊張を与えてしまうのではなくて、何かをやめていくと見つかるのですが。“やめていく感覚”を感じるのは皆、難しいので。

藤田 まさにそうですね。昔は「わかる奴だけわかればいい」という感じだったけど。今は最初からそれを言っとけばいいんじゃないかな、と僕は思うんですけどね。

 禅でいうと、アメリカでも最初、「悟ったらこうなるよ」という結果を示した本が、やたら出たんですよ。「悟った人の言動はこんなふうになる」とか「悟った世界は哲学的にいうとこんなふうになる」とか。その結果、皆「そうなりたい」と思って、そこを目指してしまったんです。アメリカの人たちはまず、そういうことを考える。要するにプログラムを作ろうとするわけです。

 だけど「悟りとは、そういうことではない」と言うと今度は、何が違うのかについてまた考えてしまって、堂々巡りをしてしまう。それに対する突破口はやはり、“感じる”ことです。まさにブルース・リーの「Don’t think, feel!(考えるな、感じろ)」ですよ。

 「悟りはどんな状態なんだろう」とまず考えてしまうのは、考えることで感じることの代行をしてしまおうとする。 大体、禅に来る人たちって考えるのが得意で、そのやり方で社会的に高い地位を築いてきた人たちです。同じ路線で「禅も自分のモノにしてやろう」と思っている人たちが、特に集まっているので。

小笠原 それは意外。考えるのと感じるのとでは、生理学的な状態も全然違うし、モードが違うものですよね。

藤田 そう、全然違うんです。考えるモードと、感じるモードは。でもほとんどの人が、のぼせてるといったらおかしいけど、上のほうにエネルギーが上がってる人が多いんですよね。思考が過剰な状態。

小笠原 「考えるよりまず、身体からいく」方が、到達できるまでの時間がずっと早い。脱力、委ねていく、サポートを感じる、といった身体の感覚があると、こういう生理学的な状態を体験できる。その体感からもう一回、経験をたどりなおして考えた方が、リラックするまでの時間が速いんじゃないかなと思います。

 そのことをお伝えしたくて、今回の本では「感情を片付けるには身体から」というテーマで書いたんです。

(第一回 了)

書籍情報や更新情報をメールで受け取りたい方は無料のメルマガへご登録ください。

--Profile--

藤田 一照(Issho Fujita)写真右

曹洞宗国際センター2代目所長。東京大学大学院教育心理学専攻博士課程を中退し、曹洞宗僧侶となる。33歳で渡米し、以来17年半にわたってアメリカのパイオニア・ヴァレー禅堂で禅の指導を行う。現在、葉山を中心に坐禅の研究・指導にあたっている。著作に『現代坐禅講義 – 只管打坐への道』(佼成出版社)、『アップデートする仏教』(幻冬舎新書、山下良道氏との共著)、『禅の教室』(中公新書、伊藤比呂美氏との共著)、訳書に『禅マインド・ビギナーズ マインド2』(サンガ新書)など多数。

小笠原 和葉(Kazuha Ogasawara)写真左

ボディーワーカー、意識・感情システム研究家。学生時代から悩まされていたアトピーをヨガで克服したことをきっかけに、 ココロとカラダの研究をはじめ、エンジニアからボディーワーカーに転身。 施術と並行して意識やカラダを含んだその人の全体性を、一つのシステムとして捉え解決するメソッド 「PBM(プレゼンス・ブレイクスルー・メソッド®)」を構築。海外からも受講者が訪れる人気講座となっている。

 クラニオセイクラル・ヒーリングアートチューターカリフォルニア州認定マッサージプラクティショナー東海大学大学院理学研究科宇宙物理学専攻修士課程修了。

bottom of page