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出版前・特別インタビュー 2

「怪我で知った「足」の大事さ」

 ここでは、本書出版直前に担当編集者が行った中村考宏先生へのインタビューを全三回でご紹介しています。

本書で触れられていなかった意外なエピソードも登場しますのでどうぞご期待下さい。

 第二回目の今回は、中村先生が味わった怪我とそこからどうやって立ち直り、改めて「足」の重要性に気がついたのかを伺いました。また今回は、取材にご同席頂いた中村よし子夫人にも一緒にお話しを伺っています。

中村考宏先生、よし子夫人

奥様(中村よし子さん)とのツーショット。怪我で大変な時期を乗り越えられたのは内助の功あってのことでした。なお奥様も骨盤起こしの指導をされており著書に『女性のための「骨盤おこし」: 骨格美メソッド』(中村よし子著・中村考宏監修 春秋社刊)があります。

編集 先ほどの体を壊すと言えば、中村先生ご自身も随分酷く壊したことがあるそうですね。



中村 ええ、ストレッチでやりました。2004年の11月の中頃で、色々研究しているうちに胴体の捉え方が分かってきて、そこから股関節の稼働を求めたんですね。その時に無理に伸ばして右足を壊したんです。

編集 麻痺(末梢神経麻痺)したんですよね?

中村 そうです。まず「バチン!」という激痛から始まって、そのうち趾の先から段々感覚が無くなって来たんですよ。

奥様 恐かったね。

編集 奥様もその場に居らっしゃったんですか?

奥様 居ました。

中村 丁度、子供の七五三の写真を撮りに行くといくところで、出先で「おい、段々感覚が無くなってきたぞ……」って

編集 うわ。

中村 夜には感覚が無くて足首から先が垂れてました。まったく何も感じなくて、まだ痛い方がましでしたよ。

編集 救急車か何かで病院に行ったわけですか?

中村 行きませんでした。私自身病院に勤務していたこともあったので、こういう末梢神経系のものは整形外科に行っても、まず何も出来ないんですよ。

編集 じゃあ本文に出てくるリハビリというのは?

中村 自宅で自分でやったんですよ。

編集 そうだったんですか、それは知りませんでした

 

奥様(中村よし子夫人) 仕事も休まず、患者さんに気付かれないようにしてやっていたんですよ。

編集 (絶句)

中村 動けないですからね、治療用ベットの横に椅子を沢山並べて移動して。誰にもばれなかったですね(笑)

編集 リハビリとお話しされていたのは病院でのことと思っていました。

中村 いえいえ、自分でやっていたんですよ。

編集 では本当に本に「これは趾のリハビリです」と書いてあるのは自分で試したリハビリだったんですね。

中村 そうです。私の実体験から出てきたものですね。だから本文で「診察を受けた」ということが出てきますけど、それは歩けるようになった後に知り合いのPT(理学療法士)の人に看てもらったということです。

奥様 ただその時も、まだ麻痺していたので「なんでこれで歩けるのか分からない」と不思議がられました(笑)。

中村 いや実は私自身、PTの人がどんなふうに診断するのかに興味があったんですよ(笑)。最初に別の病院に勤めている人に電話で相談した時に、「保存療法か筋腱移行術で足の他の場所から筋肉を移動させてくる手術しかない」と言われて、「それなら行かない方が良い」と。自分の病院時代を思い出してもそういうことには無力でしたから。

編集 改めて伺うとその怪我の経験が大きいのですね。

中村 そうですね。趾のことはもちろん、骨の構造で体を支えるとか、筋肉に偏ってはいけないといったことは、この時の経験がとても大きいです。あの「異常感覚」は凄かったですよ。

奥様 酷かったね。

編集 異常感覚?

中村 「異常知覚」というんですか、知覚系が誤作動を起こした状態だったんですよ。だから普通につねったり打ったりして痛い、というのではなく「感覚が壊れてる」んですよ。

編集 痛いじゃない?

中村 もう痛いじゃないんですよ。

奥様 足がビリビリ痺れていて、触らなくも(足に)近づいただけで「ビリビリビリ!」と来るみたいで「うぅ!」って、精神状態も異常になるくらいでしたね。

中村 あと画鋲の上を歩くような感じで、痛いし恐怖があるんですよ。グローブを足にはめているような感覚もあって、「これで本当に足を着いていいんだろうか?」という感じもして。これは言葉にするのは本当に難しいですね。
 

 それでもまず(床に足を)着いて、加重するところから始めました。最初は左脚だけで立って、ちょっとずつ加重していくんですけど、足先はぶらぶらしているのでどっかに引っかけたりして危ないんですよ。だからマジックバンドで垂れ下がらないように足首を固定してやってました。ただいまにして思えば「重力に対して体を立てる」というのは凄いリハビリなんですよ。病院で寝ているだけでは治らないんです。やっぱり重力の中で立って生きるのが人間ですから、立つことによって骨や関節にも筋肉にもいい刺激が入るんですね。

編集 内臓の位置も整う感じがしますね。

中村 そうですね。ですからリハビリの一歩目はまず立って加重をするところからでした。それがある程度出来るようになってから、足を進めるようになって。それは怪我をして一ヶ月目でした。本当にゆっくりで歩いていて端から見てれば止まっているようにしか見えなかったでしょうね。

編集 その時は完全に右足に体重を預けるわけですね。

中村 そうです。だから歩くというより片足立ちの練習に近かったかも知れないですね。

編集 先ほどのお話にあった異常感覚はその間もあるのですか?

中村 動き始めてから段々消えていきました。多分動いてなかったらずっとあったと思います。

奥様 確かバレンタインにチョコを賭けて息子と歩く競争をしてましたから2月にはもう歩いていたと思います。

中村 そうだった。息子と1.5キロ走る競争をやって、負けたんだった(笑)。その時はまだ走れませんでしたけど。

奥様 足首を背屈させることが出来ないから靴下も捌けなくて、裸足にサンダルでやっていた気がするね。

編集 本文に「普通の人の足は麻痺しているみたいなものです」という文章が出てきますが、これはその時の経験からきた言葉ですね。

中村 はい。正直に言えばほとんどの人はかなりデタラメに衝撃の掛かるようなやり方で足を着いていると思います。私が異常感覚の時には本当に小さな石や草があるだけで体勢が崩れるので、本当に慎重に慎重に足を置くことを意識して、そこから改めて足裏や重力、体の構造について考え直しました。

編集 趾の役割ということではどうでしょう?

中村 趾については、この怪我が治ってからですね。丁度、下駄を研究している時に「鼻緒の無い下駄を履いたらどうなるだろう?」と思って「まるみつさん」に頼んで「牧神の蹄」を作ったんですよ。それで稽古会でやってもらうと、みんな趾で掴むことが出来ないんですね。色々試行錯誤しているうちに「親指で掴むと大腿四頭筋に力が入って、股関節が利かなくなる」と気がついたんです。で、逆に小指側で掴むと脚から股関節、体全体が繋がる感じで、「あ、小指じゃないかな?」と気がついたんです。そこで多分、「親指はブレーキ、小指がアクセル」ということが明確になったんですね。ブレーキの親指についてはそれまでもよく話していたんですけど、小指については「牧神の蹄」が切っ掛けでした。それから論理が深まっていったわけです。



以下、次回へ続く

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