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Interview

 ここでは新刊『システマ・ストライク』について、著者の北川貴英さんにお話しを伺ったインタビュー(約2万字!)を公開しています。本と一緒にお読み頂ければ、より著者の意図や本の背景などを理解する助けになると思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 PDFもご用意していますので、併せてご活用ください。

01 殴り合いは男の娯楽? 

 

— まず、この本のテーマから伺わせてください。

 

北川 タイトルの通り、ストライクですね(笑)。

 

— (笑)この本は北川さんにとって何冊目になるのでしょう?

 

北川 6冊目ですね。

 

— 凄いですね! ただ純粋なマーシャルアーツのシステマの本となると久しぶりになりますね。

 

北川 そうですね。厳密に言うと初めてかもしれませんね。

 

— 初めて?

 

北川 『システマ入門』(BABジャパン刊)は、システマの全体像を紹介するというのがテーマでしたから。今回のようにマーシャルアーツ的な側面に特化して本を書いたのは初めてかもしれません。

 

— 『入門』はシステマの全体像を紹介するということでは、とても良い本だったと思います。

 

北川 ありがとうございます(笑)。

 

— そして今回は「ストライク」がテーマなのですが、これは?

 

北川 それは担当の編集さんからオファーされたからです(笑)。

 

— そうでした(笑)。それには理由があって、北川さんがTwitterでされている「システマbot」という、システマのマスター達の名言を流しているbotで、ある時、今回の本の帯にも使った「打撃戦は野郎の娯楽です」というミカエル先生の言葉が流れてきて、かなり衝撃だったのですね。

 確かにミカエル先生が軍隊で経験されてきた修羅場を考えれば、徒手による打撃戦は限りなく現実的ではない。と、同時に、「では何故、システマではストライクを稽古しているのだろう?」という疑問が生まれたわけです。

 

北川 はい。もうひとつミカエルが打撃戦を「娯楽」と言うのには背景があって、向こう(ロシア)ではステンカというスポーツというかお祭りがあるんです。なにをするかというと村の青年が2つのチームに分かれて、「よーいドン!」で殴り合うという、システマで言うところのマスアタック(集団戦)みたいな感じですね。

 

— それは凄いですね!みんなで殴り合うわけですか。

 

北川 私も実際に見たり、ましてや現地で参加したりしたわけではないのですが、日本で言う「喧嘩祭り」みたいな感じみたいですね。陣形を組んで殴り合う。ただ拳の中に石を握り込んだりといった卑怯なマネをすると、両軍から袋叩きにされるというある意味でとてもフェアなものなんです。

 ただ改めて動画を観てみると、同じようなことは海外のシステマキャンプでやってますね。大規模なキャンプだと200人くらい集まりますから、広場で二手に分かれて100人対100人で一斉に殴り合ったりとか(笑)。システマの場合は、もう少し戦略的な要素を加味した集団戦も色々とやります。もみくちゃになりますが、かなり楽しいですよ

 

— それで「娯楽」だと。

 

北川 そうなんです。石や棍棒でも持ち出そうものなら、娯楽として成立しませんからね。ただこのステンカというのは、「祭り」という形を借りた軍事教練でもあったようですね。

 

— なるほど、一対一というのではなく集団で殴り合うというのはかなり実際性がありますね。

 

北川 だからソ連時代は禁止されていたそうです。

 

— 確かに暴動の予備訓練みたいですからね。

 

北川 そうした文化背景がストライクという拳の打撃についてのもとになっているのではないかと思いますね。それが「殴り合いは娯楽」という前提のもとになっているのではないでしょうか。

 

— システマのストライクが一対多をベースにしている理由もそこにあるわけですね。

 

北川 よくヒヨードル(エメリコエンヤ・ヒヨードル ロシアの総合格闘家)が、「システマをやっていたのか?」という話があるじゃないですか。彼はおそらく私たちのリャブコ・システマはやっていないんじゃないかと思います。ただ、そうしたお祭りは禁止されても完全に消えることはないので、多分お父さんか誰かから殴り方くらい教わっていると思うんですね。よく「ロシアンフックはシステマから来ているんじゃないか」と言われますけど、あれはその名の通りロシアの文化の中にある、一般的な殴り方なんじゃないかな、と。 

 

— 各家庭で殴り方の伝承があると(笑)。

 

北川 ええ(笑)。おそらくロシア人男性にとっては、日本人男子ならだいたい御神輿の担ぎ方くらい知っているのと同じような位置づけなんじゃないかと思います。これはコンスタンチン(システママスターの一人。本書でもインタビューで登場している)が言っていたんですけど、「ロシアのサッカーのフーリガンは集団戦が上手で警察が手を焼いている」と(笑)。これは集団戦のノウハウがロシアの若者にはあるからなんでしょうね。

 

— (笑)なるほど「娯楽」の意味がよく分かりました。

 

北川 「パンチはお祭りの中で使うもの」というのがあるんでしょうね。

 

— もう一つ、一般にマーシャルアーツと言われるものに徒手を中心に据えたものが多いと思います。ただ実際に身を護る時にはなにがしかの道具を用いた方が良いわけですし、逆の立場の場合も同じでしょう。それは誰でも分かっていることなのですが、競技的な要素とのクロスオーバーもありどうしてもそこが見失われがちなところもあってミカエル先生の言葉に衝撃を受けたのだと思います。 そこで改めて「ではなぜシステマではストライクの稽古をするのか?」という最初のところに戻るわけです。

 

北川 武術の稽古ということで言えば、素手の稽古が一番安全に痛みを体験できるわけですね。またストライクというのは「打撃」という意味ですけど、打撃にも肉体的なものから精神的な打撃まで色々とあるわけです。それらを全て含めた「打撃を受ける」こと全般に対するメタファーがシステマの「ストライク」だと考えています。だから別に「パンチをどうするか?」を目的にやっているわけではなく、「不可避でどうしようもない衝撃に対してどう対処して、どうやってダメージを回復するのか」といったこと全般ですね。例えば肉体的なものではなくても、会社で「お前クビ」と言われたり、FXで失敗して財産を失うとかってのも衝撃じゃないですか(笑)。むしろパンチなんかよりもダメージとしては全然でかい。

 

— 確かにそうですね(笑)。

 

北川 ジムのなかでだけではなく、そうした生活の中で起こりえる衝撃に対しても使えるものが武術的だと思うんですね。

 

— システマで言うストライクは衝撃全般を指しているわけですね。その中でも先ほどお話しにあった精神的な衝撃について、システマの場合はそれを頭で処理するのではなく、身体を通した実際の衝撃として捉えて解消していくわけですか。

 

北川 精神的な衝撃も、車にぶつかるといった物理的な衝撃でも乗り越え方は同じなんですよ。要するに呼吸をして「リラックス」して「力を抜く」と。

 

— 確かに北川さんがこれまでの本(『最強の呼吸法』『最強のリラックス』など)ではそうした実生活でのストレス、衝撃に対する方法が丁寧に書かれていましたね。

 

北川 そういう意味ではずっとストライクについて書いてきたとも言えますね。

 

02へ続く

北川貴英 Takahide Kitagawa

ステンカで検索した関連動画。現在はスポーツとしても活動されており、日本国内にも協会があります。

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