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Interview

 ここでは新刊『システマ・ストライク』について、著者の北川貴英さんにお話しを伺ったインタビュー(約2万字!)を公開しています。本と一緒にお読み頂ければ、より著者の意図や本の背景などを理解する助けになると思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 PDFもご用意していますので、併せてご活用ください。

06 日常生活に活きるものであって欲しい

 

北川 そうですね。そういう見方でいくと、システマの稽古にしてもバンバン殴り合って「わ〜スッキリした」で終わって欲しくはないんですね。ミカエルは「システマは日常に役に立って価値があるものだ」と言っていますから。実際にそういうものでないとシステマの練習にならないんじゃないかと、私は思うんです。

 

— 稽古場所で行っていることと外での間がシームレスでなければいけない、と。

 

北川 練習空間で得たものを日常生活でどう活かすかが大事で、それはもうそれぞれが自分にフィールドで試していくことが大切だと思います。もちろん色々な目的でシステマを習っている人がいるのは良いことです。練習でバンバン殴り合って「気持ち良い!」というシステマをやりたい人はそれで良いんだと思います。ただ僕はミカエルの言う「システマは日常の役に立つ」というところに拘っているので「日常生活に役に立つシステマをやらなきゃいけないな」と思ってやっているんです。だから、システマがどのように日常生活に役立つか、ということの「どのように」の部分についてより深く考えていかないといけない。ただ「ミカエルがそう言っているから、日常にも役立つに違いない」と漠然と思っているだけでもいけないんです。単純に「創った人が言っているんだからしょうがないじゃないか」と受け入れつつも、その行間を徹底的に読み込んでいきたいんですよね。そうやっていくことでしか、マスター達の指し示す先には行けないんじゃないかと。

 

— なるほど。また先生もいらっしゃいますからね。

 

北川 そこは凄くラッキーです。なにせ分からないことがあれば直接訊けるんですから。でもそれは逆に、変なことをやっていると全部バレるってことでもあります(笑)。

 

— バレますか(笑)。

 

北川 バンバン、バレますよ(笑)。モスクワにいても全部お見通しです。僕がこういうインタビュー受けて、こんなことを喋ってるってのも全部バレてるような気がするくらいですよ。実際、妙な透視能力みたいなの発揮することありますからね、あの人。あまり言うとうさんくさくなりそうなのでこのくらいに止めておきますけど。だから、ミカエルの来日セミナーとかすっごく緊張するんです。僕のクラスに来てくれてる人達も大勢参加するわけですから、彼らを通して僕が普段どんなクラスをやっているのか全てバレてしまうんです。もしそれで僕が至らないとしても、許してくれる人でもあるんですけれどもね。

 

— 本の中にインターナルワークという、最近のシステマの技術潮流が紹介されていますが。これもまたそうしたことに関連しているんでしょうか?

 

北川 個人的な見解で言うと、インターナルワークは精度を高める段階ですよね。

 

— インターナルワークって一見すると、相手の身体に触れているだけで何もしていないのに倒れてしまうような不思議な現象ですね。

 

北川 ええ。ただこの間の大阪セミナー(2014年3月)でミカエルも言っていたんですけど、インターナルワークだけでも一面的になってしまいますよね。あくまでもシステマの一部分ですから。実際、モスクワの本部ではインターナルワークが熱心に行われているんですけど、そこに集まって練習している人達って、別にインターナルワークをやらなくても強い人ばかりで(笑)。

 

— 元々強いと(笑)。

 

北川 トレーニングで普通のおじさん風の人と組むわけですけど、聞くと元特殊部隊とか元有名な格闘家とかが普通なんです(笑)。みんな一緒にミカエルに投げられているから気がつかないんですけど、実はかなりヤバい人だったりすることがよくあるんです(笑)。そういう人達が過去の実績を捨ててゼロから従来のシステマを散々やり込んだところから、さらにレベルアップするための練習としてインターナルワークをやってるんです。だからちょうどバランスがとれる。運動もろくにしてない人は、まず外側を固めていかないといけない。インターナルワーク以前の段階があるわけです。

 

— ついああした不思議な現象に目がいきますけど、それだけをやっても駄目だと。

 

北川 そうですね。従来のシステマをインターナルワークを平行して行うことで、動きの精度を高めることなので、色々なことが深まりやすいと思いますけど、インターナルワークだけでどうにかなるというものではないです。まあもともとインターナルだとか従来型だとか分けられるものでもないのですけれども。私としてはインターナルワークとか言われても「え、それって前から大事だったじゃん」と、いう印象でしたし。

 

— 動きの定規の目盛りをさらに細分化していくような作業なんですね。それによって自分も相手もコントロールする能力が高まると。ただ前提になる動く力がないと駄目だということですか。

 

北川 なんでもそうですけど、例えば絵ならまず大まかなデッサンから始めて、ディテールに入っていくわけじゃないですか。それと同じですね。

 

— 今回は「ストライク」というキーワードもあるので、全くシステマの経験のない打撃系を稽古されている方にも本を手に取って頂く機会があるかと思いますが、そうした方へのメッセージを頂きたいのですが。

 

北川 まずは、自分が今やっている武道なり格闘技なりをちゃんとやって頂くのが良いかと思います。

 

— なんとストレートな(笑)。

 

北川 いえいえ、本当に。例えば空手をされている方が、「ちょっと自分の空手に活かしてみよう」とか思って、先生に無断でシステマのテクニックを稽古に取り入れたりしない方が良いと思います。家とかで一人で試すならまだしも、道場ではやっちゃいけない。

 

— なんという正しい答えを(笑)。

 

北川 そうですか(笑)。でも技術をヘタにミックスすると、全体のバランスが崩れるんです。で、結局どっちもおかしなことになる。そういう例も色々見てますから。だから自分のやっていることに「システマを付け足そう」という風には思って欲しくないですね。もともと空手にしてもボクシングにしてもそれ自体で完成されているものですから。そこに自分勝手に何かを付け足すというのは、もともとやっているものに対しても、システマに対しても失礼なことになってしまいますし。だからサッカーをされている人が野球の本を読むくらいの感覚で読んで頂ければちょうど良いんじゃないでしょうか。サッカーのフィールドにバットを持っていくことはできなくても、選手としての心構えとかそういったところで得られるものがあったりするでしょう。そうやってその人のされていることそのものへの理解を深めるヒントとして役立つなら嬉しいですね。

 

— そのくらい分けて考えた方が良いと。

 

北川 そうした方がかえって良いと思います。その人にとっても。

 

— ではシステマを稽古されている方へはどうでしょう?

 

北川 当たり前のことなんですけど、いつかミカエルやヴラッドといったマスター達には会えなくなるんです。今みたいに彼らの直接指導を受けられる時期が、あと二十年続けばかなりラッキーだと思っていいでしょう。その時に残るのは、映像とテキストです。それらをとりあえず大量に残しておくことで、教えや言葉だけでなく今私たちが感じているようなシステマならではの佇まいや雰囲気といったものも、次の世代に伝えられたらと思うんですよね。

 僕たちの世代は幸せなことに戦争を体験していません。そのデメリットは、戦争の悲惨さや平和の大切さを実感しにくいことです。そんな僕たちの果たすべき使命は、戦場で実際に悲惨な体験をした人々の経験から、平和への思いとそのためのアプローチをきっちり受け継ぐことだと思うんです。それができないと悲惨な歴史が繰り返されることになります。システマの場合、画期的だと思うのは平和への思いだけでなく、そこに至る道筋が明確に提示されているということなんですよね。だからこの本もそうした意図による活動の一環なんです。

 ただもちろん、テキストの場合は書いた人間の解釈が加わります。『システマ・ストライク』の場合は僕というバイアスがどうしてもかかってしまう。それはもう避けられないことですから、システマをやっている人がこの本を読んで疑問に思うことがあったら、ミカエルに直接訊いて下さい(笑)。「北川はこういう風に書いているけど、そこのところどうなんですか?」と。僕なんかに聞くよりもよほどためになる答えが返って来ますよ。創始者に直接訊けるというのは、凄くラッキーなことなんですから。やらない手はないと思います。

 

— 確かに創始者に訊けるのは大きなことですね。

 

北川 そうなんです。映像とテキストともう一つ残るのは伝聞です。その伝聞をたくさん残すには、大勢の人にマスターに会って頂かないといけない。ですから11月に東京で行なわれるミカエルセミナーにぜひ来て下さい(笑)。

 

— そう繫がるわけですか(笑)素晴らしい! 本日は長時間ありがとうございました。

 

北川 ありがとうございました。

 

 

2014年4月8日収録 聞き手●シモムラアツオ

ミカエル氏のデモンストレーションの相手を務める北川氏。

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