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Interview

 ここでは新刊『システマ・ストライク』について、著者の北川貴英さんにお話しを伺ったインタビュー(約2万字!)を公開しています。本と一緒にお読み頂ければ、より著者の意図や本の背景などを理解する助けになると思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 PDFもご用意していますので、併せてご活用ください。

02 大事なことは全て言葉にされている

 

— それを踏まえて今回はマーシャルアーツ・武術のどまん中である、ストライクについて書いてみたというわけですね。それだけに内容も一般的な武術で想像するストライク・打撃とは随分毛色が違いますね。

 

北川 そうですね。

 

— パンチなりキックを「こう打つとより速く、破壊力がある」という技術についての優れた本はこれまでも沢山あるのですが、「打つ、打たれる」の「前提と結果」についてここまできめ細かく書かれている本はあまりないと思います。

 

北川 「全ての攻撃を防ぎきれることは不可能だ」ということが前提になっていますからね。そうなると「当たったらどうするか?」というところから始めなければならないわけで、それが徒手だけではなく刃物にも通用しなければいけないし、同時に日常生活にも通用しなければいけない。そこを踏まえてやっていくと色々面白いと思うんです。システマを稽古している人を含めて、みんなが自覚している以上に、システマのトレーニングって日常に直結するんですよ。でもそれがなかなか分からない。私自身も理解するのに時間がかかりましたからね。なぜなら「システマはロシア軍の軍隊格闘技だ」というレッテルが邪魔をしてしまうからなんです。だから、そこのところをなんとかうまく伝えられたらな、というのは常に考えてます。

 

— これは「はじめに」でも触れられているのですが、打撃に対して根性論や実際にやっていく中で個々人の慣れで解決することが多いように思います。もちろんそれも実際的な方法なのですが、その中で衝撃に対して不感症になってしまい、素手なら慣れでどうにかなるけど刃物が出ると全く違ってしまう、ということも少なからずある気がします。 また逆に、稽古のシステムによっては一度も打撃をもらうという経験をしないまま、成功した対処方法だけを積み重ねていく場合もあると思います。

 

北川 実際、根性で伸びる人もいるわけですから、それ自体はその人の相性だと思うんですね。マーシャルアーツをやろうがやるまいが関係なく強い人っていますし。ただシステマの場合はできるだけドロップアウトさせたくないんです。だからふるいに掛けるようなことはしたくない。だってマーシャルアーツって弱い人が強くなれてなんぼですよね。おそらく軍隊に入って来た若者を「根性がないから」という理由で片っ端からふるい落としてたら、軍が成立しなくなっちゃうと思うんです。

 

— 確かにそうですね。

 

北川 あとこれは根性論ではないんですけど、さっきのステンカやケンカ祭りとか、青年が大人になるイニシエーションとしての役割もあると思うんですね。それが今の日本にはほとんどなくなってしまっているのではないかという気はします。

 

— 通過儀礼として「殴る、殴られる」があると。特にこの「殴られる」というのが面白いところで、通常は殴られないようにガードや距離の取り方などから練習をしていくのですが、システマではまず「殴られる」ところから始めていくという。これは私が初めてシステマを見た時から面白いと感じているところです。

 

北川 まあ四方八方から殴られるステンカで、一発も殴られずに済むなんてことはないでしょう(笑)。

 

— 確かにそう考えれば当たり前だったんですね(笑)。そこで普通なら慣れや根性論で解決しそうなところを、呼吸を使った技術的に解決する道を用意しているのが面白いですね。

 

北川 その辺はロシアというか旧ソ的な「言語化する」という文化があるのかもしれないですね。演劇とかバレエでもそうなんですけど、日本だと感覚や感性という言葉で済ませていることでも、ロシアの場合は言葉で明文化してしまうんです。特にバレエの場合は、子供の適性を調べる際に、何代か前まで遡ってその子がバレエに適した体系に育つかどうか調べるくらいですから。遺伝的にバレエ体型になれないのであれば、どんなに本人がバレエ好きでもプロへの道を閉ざしてしまうと。そういう独特の合理性を感じます。

 

— なるほど、その合理性が底にあるからこそシステマ(英語のシステムの意)なんですね。

 

北川 ですから感性とか感覚といった言葉にできない技術を言葉にしようとするんです。 システマで大切なことは、全てミカエルは言葉にしているんですよ。ただ、人間的なレベルが違うと話の前提そのものが違ってきてしまいます。するとミカエルはかなり噛み砕いて分かりやすく話しているつもりなんだけど、受け取る側にとっては難解になってしまうこともあるわけです。ただ後でよくよく言葉の意味を吟味してみると、案外そのままのことを言っている(笑)。あんまり深読みしたりしないで素直に言われた通りにやれば良いという風になっているんです。ですから、どちらからというと「ミカエルは大先生だから言っていることが分からなくても当然だ」というような思い込みで蓋をしてしまっていることが多いように思いますね。

 

— 「ミカエルは達人だから、自分なんかに理解できるはずがない」というような思い込みですか。

 

北川 そうです。そうやって耳を塞いで、勝手な解釈をして逸れてしまったりすることがあるわけです。

 

— 自分のやりやすい形にしてしまうということは多い気がします。

 

北川 そうですね。

 

03へ続く

ストライクを説明するマスター・ヴラディミア氏

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